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2026/9/29


”人が集まる”だけでは終わらない。5年目を迎えたワークプレイス『SYCL by KEIO』が試行錯誤しながら育てるコミュニティと街とのつながり

2022年3月、京王井の頭線・下北沢駅の高架下に誕生した『ミカン下北』。その一角に構えるワークプレイス『SYCL by KEIO』(以下、SYCL)が、開業から5年目を迎えました。 開業半年で会員数160名を突破し、会員同士のコラボレーションや街との連携が次々と生まれてきたSYCL。主催するプログラムから生まれたアイデアや妄想の数は1,000を超えました。想定外のこともたくさん生まれたというこの5年を、SYCLの立ち上げから現在まで運営責任者を務めるトカラメディアの影山直毅と、開業前から開発に携わった京王電鉄の菊池祥子様、開業時より運営を担っている京王SCクリエイションの石塚まゆ様の3名で、開業当初のこと、試行錯誤の5年間、そして次の5年間の妄想を一緒に語っていきます。

ヒトカラメディア
プロジェクトメンバー

1. ワークスペースの熱量から生まれた協業、実験、プロダクト

―― まず現在の『SYCL by KEIO』の状況から教えていただけますか?まもなく開業5周年を迎えるまでのあいだでSYCLはどう変化しましたか?

ヒトカラメディア・影山直毅(以下「影山」): 会員数は、実はこの5年間で一番多い状態にあります。主にコワーキングスペースで構成されているA街区だけでも120名以上いらっしゃって、24時間365日利用可能なフルタイムプランは空き待ちになっています。ありがたいことに売上も好調で、施設全体として過去最高を更新しています。

京王電鉄株式会社・菊池祥子 様(以下「菊池」):開業時に見立てていたコワーキングスペースの利用頻度は、アクティブ率のグラデーションを見込んで設計していました。でも、『SYCL by KEIO』ではありがたいことに毎日利用して下さる会員さんも多く、アクティブにご利用くださっているので、現在は物理的なキャパシティの都合で一旦募集を止めているような状態と聞いております。

影山:そうなんです。そこは良い意味で予想を裏切り計画通りにはいかなかったですね(笑)。それと、会員さん同士のコラボレーションや協業も、コミュニティを設定していた時の想定以上に早い段階でたくさん生まれました。このワークスペースに熱量があるからこそ、こういった展開が生まれているんだと思います。

―― そのコラボレーションをいくつかご紹介いただけますか?

株式会社京王SCクリエイション・石塚まゆ 様(以下「石塚」):この5年でたくさんのコラボが生まれましたが、私が特に印象深かったのは、会員さん起案の事業であるリカバリードリンクの開発です。ある会員さんが働く人に向けたリカバリードリンクを事業として開発されていたんですね。その過程で、試飲会を何度もSYCL内で実施して、たくさんの会員さんが「もっとこうなってほしい」という意見を寄せて、ロゴデザインもボトルのデザインもSYCLの会員さんが手掛ける形になりました。つまり、新しいプロダクトが”オールSYCL”で出来上がったんです。今日も私はボトルを使わせていただいていますが、皆さんのスキルの詰め合わせで出来上がっている感じがとてもうれしいです。

石塚:試飲会は京王電鉄の本社でも社員向けに実施していただきました。そんなふうに、会員さんがSYCLだけでなく、『ミカン下北』や京王の持つアセットを積極的に実験や挑戦の場として使っていただいていることも印象的です。他にも、会員さんがSYCLから街へ出て活動してくださっている事例は数多くあります。例えば『ミカン下北』のテナントである『BROOKLYN ROASTING COMPANY SHIMOKITAZAWA』さんでは、会員さんが考案した顧客の本音を拾えるツール『ホンネPOST』の実証実験を行ったり、別の会員さんで大学生のキャリア支援などを行っている会員さんは、『ミカン下北』全体を使って、ハタチを迎える学生たちに向けたイベント『ハタチの日』を企画し、開催してくださいました。

写真引用:ミカン下北が、ハタチと未来を考える場に。Original Pointが若者のキャリアに注力する理由とは | 東京都実験区下北沢(2025/4/9)

影山:大きなプロジェクトから小さな協業まで、本当にたくさんのコラボレーションが生まれましたし、会員さん同士がお互いの事業内容を把握されていて、日々声を掛け合ったり、ちょっと立ち話をして・・・というのは、もうSYCLでは当たり前の光景になってきました。5年の間に事業をどんどん成長させていく会員さんも多く、たとえばYOAKEという会社さんは、最初は代表の方がおひとりで入会し、その後4名個室に移り、今ではB街区のセットアップオフィスへと拡大されています。SYCLがその成長にずっと伴走できているのもうれしいですね。

―― 会員さん同士の活発な交流やコラボレーションを創出するために、コミュニティマネージャーとしてはどんな工夫をされてきたのですか?

影山:コミュニティマネージャーが積極的にあいだに入り、会員さん同士を繋いだり、場をまとめたりするのはもちろん、自然とつながりやコラボレーションが生まれるための”土壌を耕す”ということを基本に据えてきました。そのために、まずコミュニティマネージャー自身がモデルケースを示して、「ここはつながることを良しとする場なんだ」と会員さんが理解できるような指針を示し、会員の皆様がそれを感じられる雰囲気をつくる。その雰囲気を感じながら「自分もやってみようかな」と思える人もいれば、『下北妄想会議』(※1)や『studioYET』(※2)のような公式プログラムがあることで初めて一歩を踏み出せる人もいる。関わり方は会員さんによってさまざまですが、いくつかのレイヤーと、そういった会員さんの特性を把握できているコミュマネチームが今のSYCLのコミュニティを支えていると思っています。

菊池:会員さん同士の交流やコラボレーションを謳っているワークスペースは他にもたくさんあると思いますが、本当にそれが機能していて、実践されている場所は珍しく、皆さま悩んでいらっしゃいますよね。

影山:コミュニティの活性化という点では、部活動の制度もこの半年ほどで大きくリニューアルしました。以前は20近くのクラブが乱立していましたが、稼働していないものを整理して現在は8つに絞り、カレー部・読書部・運動部・写真部などが動いています。部長を立て、月ごとに部費を運営側から支給して活動を継続する仕組みにしたことで、各クラブが目に見えて活発になってきました。入会したばかりの会員さんが「運動部があると聞いたので行ってみます!」と話してくれるなど、クラブ起点で会話が生まれるケースも増えています。

2. ”妄想”を一歩先へ動かしチャレンジを応援する、ソフトプログラム

―― 先ほど少しお話にあがりましたSYCLのプログラム『下北妄想会議』と『studio YET』について、この2つはどんな取り組みなのか、改めて教えていただけますか?

影山:『下北妄想会議』は、一人ひとりの「下北沢の街でこんなことをやってみたい」という妄想を起点に、下北沢の多様なプレイヤーが混ざり合い、つながるきっかけを作るためのプログラムです。大きな特徴は、SYCLが開業する前から始めていることです。施設がまだ存在しない段階から、街の方にスペースをお借りして開催していました。開業前に先に人と人のつながりを耕しておきたい、という発想で始めたプログラムです。
大切にしているのは”無責任に肩書きを取り払って話せる場”であること。企業の担当者も商店街の方も、同じ目線に立って妄想を語り合える。今では集まった妄想の数が1000個を超えています。最近は『ミカン下北』の外にも飛び出して、『下北線路街 空き地』で『青空下北妄想会議@空き地』と題してふらっと立ち寄りやすい青空妄想会議やったり、『タリーズコーヒー 下北沢店』の店内をお借りして開催もしました。場所が変わると集まる人も変わり、新しいつながりが生まれる。そういう広がりが出てきているのが面白いと感じています。
『studioYET』は、『下北妄想会議』で生まれた「やってみたい」妄想を実際に実現するための伴走をしてもらうことができる実験応援プログラムです。第0期から始まり現在は第9期まで進んでいて、総勢60組以上が参加してきました。ヒトカラメディアと京王電鉄が共同で事務局を務め、参加者のプロジェクトの相談から実践・実証のサポートまで、約3ヶ月かけて伴走支援します。先ほど紹介したリカバリードリンクの開発も、このプログラムへの参加がきっかけになっています。妄想が現実になっていくプロセスを、プログラムとして支える仕組みとして機能してきました。

▲写真引用(上記2点):誰かの“やってみたい”を街から応援──妄想を起点に実験的な取り組みをつくるきっかけの場『下北妄想会議』レポート | 東京都実験区下北沢(2026/4/9)

▲写真引用(上記2点):ひとりじゃないからこその推進力『studioYET』5期最終発表会レポート| 東京都実験区下北沢(2025/3/3)

菊池:『下北妄想会議』は、開業前の商店街などの地域の方々との関係構築においても大きな役割を果たしてくれました。大規模な再開発で我々がどういう振る舞いをするのか、警戒感がある中で、『下北妄想会議』という場にお招きして、私たちがこの下北沢でやろうとしていることを実際に体験してもらう。その体験が「これはいいね」という反応につながって、信頼関係が積み上がっていきました。あの場がなければ、今の『ミカン下北』やSYCLと街の方々との関係は生まれていなかったと思っています。

石塚:開業した2022年から『I am working in shimokitazawa』というイベントもやっていて、下北沢で働くことの価値を高める実験を続けています。最近はその流れで下北沢で開業されている他の4つのワークスペース(tefu lounge下北沢、BONUS TRACK MEMBERS、ロバート下北沢、KanadeBako)と、世田谷PORTさんなどで定期的に集まって、ランチ会を開催しているんですが、これもこの5年で下北沢で生まれたすごく良い関係性だと思っています。前回は11人ほどが集まり、最近の会員動向や各スペースのイベント情報を共有したりしました。そこにたまたま通りがかった街の知り合いの方も加わって・・・という雰囲気ですごく良かったです。
普通、同じ街のコワーキングスペース同士は競合になることが多いと思いますが、下北沢だから競合じゃなくて仲間になれるんじゃないか、という感覚があって。下北沢では古着屋さん同士が仲良い、みたいなことですよね。このランチ会のなかで、「下北沢ワーカーに視点を当てたZINEを作ろう」という話が生まれていて、その計画が動き始めているところです。

▲写真引用(上記2点):“人との距離が近い街”下北沢で働く意味と価値。『I am working in Shimokitazawa as』インタビュー | 東京都実験区下北沢(2024/9/27)

菊池:街の開発において、よく”エリアマネジメント”という言葉が使われていて、開発の目的ややりたいことよりもまず先にエリアマネジメント組織をどうにか作ろうとしがちです。とりあえず組織が必要だろうと。でも、下北沢では組織より先に、まずプレイヤーがいて、やるべきこと、やりたいことがどんどん先行していっています。それを実装し、プレイヤーの方々が動きやすくなるためにエリアマネジメント組織が必要かもしれないね、という流れにあります。本来ならそのような在り方、積み上げ方が健全ですし、開発だけがひとり歩きするようなことも避けられます。でも、実はそれって再開発においては非常に稀なケースなんですよね。私は下北沢をきっかけに色々なまちづくりのプレイヤーの方と交流したり、別エリアの開発を勉強したりする中で、その凄さを改めて感じているところです。
参加してくださる商店街の方々もご自身が『下北妄想会議』や『studioYET』に参加してくださるだけでなく、興味がありそうな方を連れて来てくださることも多くて。そうやって、SYCLの輪がどんどん街へ広がっていっているのが本当にありがたいです。

3. 次の5年へ。SYCLが目指す”街全体をフィールドに”

―― これからのSYCLをここで一緒に妄想してみたいのですが、ここから先、どんなことをやってみたいですか?

影山:ここ数年ずっと言い続けているのですが、『SYCL annex』を作りたいんです。空間的に今のSYCLでは限界があり、収まりきれないほど会員数が増えてきています。同じ機能かどうかは分かりませんが、SYCLを拡張できるような場所が街の中にできたらいいなと思っています。

菊池:新しく大きな場所を建てるのは物理的に難しそうなので、街の中にすでにある空間のアイドルタイムや空き部屋を、SYCLのネットワークの中に取り込んでいくような発想が良さそうですよね。

影山:そうなんです。居酒屋さんの夜の営業前の時間帯を使わせていただく、といったタイムシェアの形でもいいですよね。「下北沢をSYCLでジャックする」くらいのイメージで、ネットワークオフィスのようなものができたらと思っています。空き部屋の情報を募る窓口をまず設けて、街の不動産事情に詳しい商店街の方々にも協力していただきながら、少しずつ広げていければいいなと思っています。そうやって、SYCLがいつの間にか下北沢の街と会員さんをつなぐハブのようになっていけたらいいなと。

石塚:私は、SYCLの枠を超えて、下北沢で働く人たちのコミュニティネットワークを作れたらいいなと思っています。ほかのコワーキングスペースの方々ともすでに連携が生まれてきているので、下北で働く人であれば誰でも参加できるような、バーチャルの横のつながりを作れないかと考えています。5年という時間をかけて、街への信頼を積み上げてきたからこそ、次のステップが踏み出せる土台がある気がします。

影山:5年でここまで来れたのは、会員の皆さんの熱量と協力と、『下北妄想会議』などのプログラムで積み上げてきたものがあってのことですよね。その経験とネットワークを使って、次の大きなジャンプをしたいです。”下北沢で働く”ということの価値を、もっと街全体に広げていきながら、街への影響力という意味で、ここからさらに面白いことができるはずだと思っています。