IDEA
2023/8/30
”工場で働く”を考える ―事務所も休憩棟もプレハブも、もっとオモシロくできる!
ヒトカラメディアは、いわゆる通常のオフィス空間だけでなく、さまざまな工場に隣接する事務所棟や休憩棟、仮設事務所の企画やプランニングも手掛けてきました。後回しにされがちなこういった場において、どんなところに突破口を見つけ、より良く働くための空間とコミュニティを作り出してきたのでしょうか。ヒトカラメディアの中でも、特殊かつ新規性の高いプロジェクトを担うことの多い二人の切り込み隊長に話を聞きました。
ヒトカラメディア
プロジェクトメンバー
1.”休憩の質”を高める空間とは?

――まずはじめに、日新株式会社さんのプロジェクトについて教えてください。このプロジェクトでは、日経ニューオフィス賞で『四国ニューオフィス推進賞 四国経済産業局長賞』をいただきましたね。
小島 亮(以下「小島」):日新さんの四国工場では主に合板を製造されているのですが、最初は休憩棟の方は建て替えではなく、古くなったところの修繕をかねたリニューアルの予定でした。工場の事務所や休憩所のリニューアルの話は、建物の老朽化が理由で持ち上がるケースがほぼ100%なんですね。日本だと、80年代ごろに建てられた事務所が今続々と建て替えの時期を迎えている感じです。
でも、当然として、メインである工場の建物や設備の方にお金や手間をかけるので、休憩所や事務所を“もっと良くしよう”とするところまではなかなか手がまわらず、以前と同じようなものをそのままコピペして作る、というのが多いのが現状です。
八塚 裕太郎(以下「八塚」):工場の設備や機械などの生産設備は投資対効果が計算しやすいですが、オフィス棟や休憩棟は、そこに投資することで、どれくらい効果が生まれるのか? は説明しにくいところがあります。その結果、年月が経ち、誰の目から見ても老朽化してきてようやく「さすがにもう建て替えでしょう」という意思決定が下るわけですが、そんな建て替えやリニューアルをきっかけにして、“せっかくだからもっと良くしたい”となるように火をつけられるといいですよね。せっかくリニューアルするなら、従業員の職場環境に対する満足度を高めて、新たな社員を募集していく上でもアピールできるものにして、お客様による工場見学だけでなく、家族にも自慢できる職場になったらいいなと。いろいろなメンバーの気持ちを汲み取り、未来につながるリニューアルになっていくといいなと思っています。
――なるほど。日新さんも、最初はやはり老朽化に伴うリニューアルが命題だったのでしょうか?
小島:そうですね。でも、日新さんはとてもめずらしいというか、「せっかく建て替えるなら従業員みんなに喜んでもらえる場所にしたい」という思いを持った方が最初からいて、建替えプランを上層部に通すために一緒にタッグを組めたことが大きいですね。企画作りをヒトカラメディアが担いながら地元の設計事務所と工務店にも入ってもらいながら進めていった案件でした。
――竣工写真を拝見しましたが、ゆとりがあって明るい空間と休憩スペースのバリエーションがすごいですね。
八塚:工場で働く方は、決められた時間になったらサイレンが鳴って10分休憩する。次は15分休憩があって、その次はお昼休み・・・といったふうに、決められたルーティーンの中で働いていらっしゃいます。なので、休憩する時間や場所がすごく大切なんですよね。
小島:そう。なので、休憩の質を高めることによって、結果的に工場で働く時間の質も高まるんじゃないと思ったんです。休憩の時間をひとつひとつ整理して、それぞれにどういう場所があると良いのか?を考えていきました。

――休憩する場所があっても、以前は自分の車で休まれる方もかなり多かったそうですね。
八塚:“工場あるある”ですよね。でも、それをゼロにしようとするのも違うと思っていて、休憩所をリニューアルすることでそれが少しでも減れば良いですよね、という話を日新さんともしていました。
小島:車ってやっぱり自分だけの特別な空間ですしね。そこはあまり強く否定しない方が良いのでは?というのは確か最初の方に一生懸命伝えました。何とか辞めさせようとする人もいるんだけど、それよりも休憩所をより良くすることを考えましょうと。
――休憩する場所やスタイルの選択肢を増やして質を上げることで、必ず変わってくると?
小島:そうですね。普通のオフィスに働く場の選択肢がいろいろあるように、休憩の場にももっと選択肢があっていいはず、と思いながら作っていきました。
工場内の温度って40℃とかになるのですが、急に冷房ガンガンの部屋に入ると身体に負担がかかってしまうんですね。それで、工場の敷地内に井戸水が出るところがあったので、それを屋根から流して放射冷却で涼めるテラスを作りました。それと、以前はソファが1つしかなかったので、ゴロンと寝転がれて車と同じようにくつろげるソファをいくつも置いたりしました。
2.あえて迂回する動線を作り、タイムカードを押してもらう理由

――従業員の方の動線も考え抜き、タイムカードを置く場所までプランニングされたと聞きました。
小島:そこはけっこうこだわりましたね。もともと、タイムカードのある事務所と工場で働く方のロッカーのある棟は分かれていたんですね。従業員の方は出社するとまず事務所に寄りタイムカードを押してからロッカーのある棟へ行くという動線になっていました。今回の建替えでも棟は別々になることが決まっていたのですが、以前は事務所の入口近くにあったタイムカードの位置を、建物沿いをぐるっと回った先の事務所にいる方とあえて顔合わせる場所で押してもらうような場所に変えました。
八塚:以前の位置だと、誰とも顔を合わせずタイムカードを押してロッカーへ行くことが可能だったんですね。建て替えに向けて日新の方といろいろ話していくうちに、朝イチに従業員の顔を見ることがいかに大切かということが分かってきました。従業員の方はどちらかというと物静かでクールな方が多く、毎朝出勤した時の表情や顔色から分かることってかなりあるらしいんですよ。だから、タイムカードを押しに来たタイミングで「昨日はありがとね」とか「何かあった?」と気軽に話しかけられるのはすごく大事だと。

小島:その近くにはファミレススペースも新しく作りました。タイムカードを押しに来た時にちょっと話しかけて、その流れで少し話ができるような空間があるとより良いなと思ったんです。あとは、この工場で作っている合板もこの空間で使いました。毎日自分たちが作っているものがこういう形で使われるんだ、ということもここで共有できればと。
タイムカードを押す時間ってほんの一瞬ですし、効率のことだけを考えると他に正解はあるのかもしれないですが、工場の人も事務の人も、日々それぞれの仕事で忙しい中で、一瞬でも顔を合わせたり、ちゃんと目を見て挨拶ができるかどうかってすごく大切ですし、それが自然発生的に行われる空間を作る必要があると思っていました。
3.工場の生産性に寄与するレイアウト
――別の事例についてもお話を伺いたいのですが、こちらはどんな依頼があったのでしょうか?
八塚:ざっくり言うと「工場の生産性を上げるためのレイアウトを提案してほしい」というリクエストでした。この工場はラインを流れていって物が出来ていくというより、担当者ごとにスペースが与えられて、そこで製品を組み立てていくような工場でした。
小島:工場は機械の部門と電気の部門に分かれていたのですが、どうしたら双方がいがみ合わずに協力体制を作ることができるのかというのが課題で、どうせ工場部分をリニューアルするならオフィス部分も検討しようという話も持ち上がり、一体的にプランを考えていきました。
通常のオフィスの場合、企業のミッションやビジョン、今後の採用予定や大切にしたい働き方をベースに新しいオフィスの在り方や空間づくりを探っていきますが、工場の場合はまず前提が違います。優先度も予算もどうしても工場の建物やラインの方が高くなるので、オフィスや事務所は後回しにされてしまう。それを覆すことはなかなか難しいですが、メインである工場の生産性やモノ作りのためにも事務所の在り方がいかに大切か、ということは伝えていきたいですし、寄与できるものって少なくないことをこれまでの案件からすごく感じています。
4.プレハブだって、もっと良くなっていい!

――大規模な建設現場では、プレハブのような仮設事務所を見かけることがありますが、以前、そのプランニングも担当されたことがあるんですよね?
八塚:はい、都内の高層マンションの新設工事の際に、建設会社で働き方改革を担当されている方から「現場事務所の在り方を探りたい」と相談があり作ったものです。
これまでは、リースで借りたグレーのスチール机を数列並べて、エンドに所長席がドーンとあるような空間を、いかにパパッと作ってササっと撤去するか・・・というのが普通だったと思うんですね。
でも、“働き方改革”という事だけでなく現場の安全性や生産性を考えても、もっとコミュニケーションが取りやすく居心地の良い空間が必要なのでは?と思い提案させていただいたのがこのプロジェクトでした。
小島:こういう仮設事務所には複数の業者が出入りするパターンがすごく多くて、業者が使う場所は別のところに設けている場合がほとんどなんですね。でも、「これってどうなってましたっけ?」とすぐに聞けて、それを受けてすぐ横で図面を直したり各所に連絡を入れたり、誰かと誰かが会話しているのも何となく垣間見ることができたり・・・。仮設事務所にも人がもっと混ざり合いながら同じ場所や仕事を共有できる空間が必要だと考えました。
八塚:従来のよくある仮設事務所の形だと、雑談ってほとんど生まれないんですよね。黙々と図面を直している人やただタイムカードを押しにくる出入りする業者、現場を管理している建設業者がただ同じ空間を使っているだけになることが多くて。それが少し工夫するだけで立ち話をする場面がたくさん生まれたり、現場の方がリラックスできる空間にできたりもする。
こういう現場ではそういうことって想像以上にすごく大事なことだと思うんですよね。「昨日ちょっと飲みすぎちゃってさぁ〜」とか「ちょっとコーヒー飲んでく?」とか「そこでちょっと休めば?」とか、話しかけやすい空気が生まれコミュニケーションが取れる空間になるかどうかは、場合によっては現場の安全性に直結する部分でもあって、実は軽視できない部分も含まれているような気がするんです。
小島:そうなんですよね。とはいえ、仮設事務所が充実して休憩の質が上がったところで生産性は爆上がりしない、という現実もあるので、どうしても優先度が下がってしまうのが辛いところです。だからこそ、工夫のしがいはありますし、効果が見えにくい分、伸び代もあるとは思っていますが。

――工場という場所における働く空間や場づくりのお話を伺ってきましたが、普通のオフィスとは違う面白さってどんなところにありますか?
八塚:普通のオフィスを考える際にもたまにありますが、単に“新しくすること”が目的になってしまっている場合が多いので、それはあくまできっかけとして、会社やそこで働く人の未来を踏まえた場にどうやって繋げていくか、そこと向き合う思考にどうやって火をつけるか・・・というのは大変でもあり面白い部分かもしれないですね。一筋縄ではいかない難しさは通常のオフィス以上ですが(笑)。
――ヒトカラメディアが場づくりにおいて大事にしていることが、こういったプロジェクトに如実に出ているような気がします。
八塚:確かにそれはありますね。
小島:普通のオフィスに比べて工場の空間づくりっていろいろ遅れがちですが、さらにその事務所棟や仮設事務所となるとさらにです。でも、人が働く場所としてはどれも同じですよね。事務所棟も仮設事務所も「もっと良くしてもいいんだ!」という意識がこれからどんどん広がっていくと、状況は劇的に変わり面白くなっていくと思います。お節介だと言われるかもしれないけど、僕らはこれからも、通常オフィスだけでなく、こういった工場をはじめ、いろいろな”働く場”に携わっていけたらいいなと思っています。

編集/ヒトカラメディア編集部
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