IDEA
2026/8/21
【座談会】最新オフィス移転事情 ~空室率の超低下と工事費高騰がもたらす新たなトレンド
「オフィスの移転先がなかなか決まらない」「賃料がどんどん上がっている」。最近そんな話を耳にしたことはないでしょうか?オフィス市場は今、つてないほど”借り手に厳しい”状況を迎えています。オフィス物件の空室率は、5%前後が需要と供給の均衡点の目安とされているところ、今年に入り1%台まで低下し、内装工事費の高騰によって、移転にかかるトータルコストも上昇しています。そのような市況のなか、居抜きやセットアップオフィスへの需要が高まり、オフィス選びはさらに複雑化しています。ここでは、今後さらにスピード感も求められるオフィス移転について、ヒトカラメディアでオフィス仲介を担う木幡・上岡と、リーシングを担う三川が、物件選びのポイントや注意点、移転担当者が知っておくべき最新の市場動向などを語ります。

1. 空室率1%台まで低下。物件不足と賃料上昇でさらに激しくなる物件争奪戦
ーー本日はよろしくお願いします。まずは最近のオフィスの空室率についてお伺いします。現在、空室率はどのようになっているのでしょうか。
木幡大地(以下「木幡」): 私は主に100坪以上のオフィス物件を担当していますが、空室率は目に見えて下がっていますね。特に渋谷区、港区、中央区、千代田区、新宿区といった主要5区の物件が少なくなっているのを強く感じます。
上岡貴弓(以下「上岡」): 小〜中規模のオフィスでも空室率の低さは深刻です。空き物件が出ても埋まるまでのスピードが非常に早くて、たとえば「後日お返事します」と言ってほんの数日検討しているあいだに、もう他の申し込みが入っていることがザラにあります。極論を言えば、内見に行くときに申し込み書を持って行って、即決するくらいのスピード感が求められる状況です。
三川 慧(以下「三川」): 全体の数字で見ても、空室率はなんと1パーセント台ですからね。これはコロナ以前よりも低い状況です。
この背景にはいくつか理由があると思っていますが、ひとつは各企業が勤務形態をリモートワークから出社スタイルに戻していることがあります。それに伴うオフィスの増床や拡張のニーズが高まっていることがまず大きいですね。一時期は全国どこにいても働けるような制度を導入したり、在宅勤務を推奨する動きもありました。しかし、1周回って「やっぱり週5日の出社が基本だよね」という結論に至った企業が少なくないということですよね。また、建築費が高騰していることによる再開発や建て替えの延期も空室率が下がっている理由のひとつです。それによって、新しい物件の供給が減ってしまっているからです。

ーー空室率の低下に伴って、賃料や坪単価にもどんな影響が出ているのでしょうか。
三川: 良い物件に出会えたから申し込みを入れようと思っても、タイミングが少し遅くなると、他社の申し込みが入ってしまうだけでなく、坪単価が上がってしまうケースも出てきています。以前、内見から申し込みまで1週間あいだが空いたら、坪単価が3,000円も上がっていたことがありました。以前は募集を開始したら基本的にはその条件でいくのが通常で、途中で賃料を上げるのはなかなか難しかったのですが、今では月1回のペースで賃料を上げる物件も出てきています。三菱UFJ信託銀行の予測では2030年までに賃料が16%上昇するという話もあり、残念ながら、当面は坪単価が下がる要素は見当たりません。
上岡: オーナーさんが月末/月初のタイミングで賃料を見直したり、たとえば、5フロア空いていた物件で4フロアが埋まると、最後の1フロアは一気に坪単価を3,000円引き上げる、といったケースもあります。以前、私が担当した案件でも、ビルの下のフロアから埋まるにつれて段階的に賃料が上がり、半年ほどで結果的に坪単価が1万円近くも上がったことがありました。オフィスの物件探しはタイミングとスピード感が今まで以上に大切になってきています。
三川: さらに、最近は「CPI(消費者物価指数)連動」という仕組みを導入し始めるデベロッパーも出てきました。これは賃料を固定せず、物価が上がったらその分賃料も引き上げるというルールです。デベロッパーによってルールは異なり、物価が下がっても賃料は下げないところや、上限を設けているところもありますが、今後の金利上昇や物価高を見越して、どんどん賃料を上げていく方向に舵を切っていますね。

上岡: ただ、オーナー側からすれば、ビルを維持するための清掃員や警備員の人件費などの維持費自体が高騰しているため、単に儲けたいというだけでなく、仕方なく値上げしなければならない事情もあります。
三川:そうですね。建築費や人件費高騰はもちろんですが、職人さんの高齢化による離職や労働時間の規制強化により、ゼネコン側の人手確保も難しくなっています。今後、新築オフィスビルの建築難易度はどんどん上がっていくでしょう。
ーーなるほど。つまり、オフィスの賃料だけでなく、移転にかかる”トータルコスト”が大幅に上昇しているということですね。
木幡:はい。ここ半年のトレンドとして、賃料よりも移転のトータルコスト、とりわけ内装工事費が圧倒的なキーになっていますね。工事費が高騰していることは皆様もご存知かと思いますが、現実はその想像の上をいく事態になっていると言って良いと思います。物件の契約を済ませたあと、いざ内装の見積もりを出してみたら信じられないくらい高くて「とても払えません、移転は無理です」と、ドンデン返しになるケースもめずらしくありません。
ーーせっかく契約をしたのに移転を断念してしまうのですね。
木幡: はい。そうなると違約金を払わなくてはいけないですが、それでも中止せざるを得ないということですね。なので、最近では、契約前に一度内装工事費の見積もりを取って、それが出てから判断したいという会社さんも多いです。見積もりを見て「さすがにこの内装工事費は払えないから契約できません」となってしまうこともあります。今までのように、良い物件があったからすぐ契約するのではなく、内装工事費や現オフィスの原状回復費を含めたトータルコストを大概算でも把握することが今まで以上に大切になってきます。
上岡: 小〜中規模の物件でも同じように内装工事費の上昇が重くのしかかっていますね。そのため、内装があらかじめ付いている「セットアップオフィス」の需要がさらに上がっています。しかし、そのセットアップオフィス自体の坪単価も上がってきていて、小伝馬町、築地あたりでは4〜5年前は1万台後半だったものが今は2万台前半〜半ばまで上がりました。渋谷、恵比寿あたりでは4万円台も増えています。

2. 工事費高騰の煽りを受け、セットアップ・居抜きの需要がさらに上昇
ーー同じように「居抜き物件」の需要が急上昇しているそうですね。
木幡:そうなんです。ヒトカラメディアの実績で言うと、1年ほど前までは居抜き物件に成約されるのは全体の16%ほどでしたが、今は、お問い合わせいただく方のほとんどが居抜き物件を希望されていて、成約数も全体の約70%にも及んでいます。
オフィスの規模が大きくなればなるほど自社のブランディングを重視し、オフィスの内装に凝る傾向にあるため、居抜きは敬遠されがちでした。そのような会社でも、今は最初から居抜き前提でご相談をいただくことが増えました。内装をゼロから作るよりも部分的に壊して工事した方が圧倒的に安く済みますからね。そういった意味でも居抜きの認知がすごく広がり、物件の引き合いもすごいことになってきています。
ーーセットアップオフィスや居抜き物件を選ぶ際の注意点はありますか?
三川: セットアップオフィスはイニシャルコストが安くても、退去時のコストが高くなる物件があったりするので、契約前にきちんと確認しておいて欲しいですね。オーナーとしては、次の契約者へキレイにしてから貸したいと思うのは当然ですが、もともと使用している床材や壁材がめずらしいものや高級なものだった場合、通常オフィスの原状回復工事より割高になってしまうケースもあります。
上岡:ありますよね、そのケース。最近ではそういったトラブルを避けるために”原状回復不要”を謳うセットアップも増えてきました。その分、原状回復費用をランニングコストの中で均したり、賃料1ヶ月分程度の原状回復費を入居時に回収したりして、退去時はクリーニング代程度で済ませるようにしています。退去時のコストが心配でしたら、こういった物件を選ぶのが一番良いと思います。
3. 「良い物件を待つ」から「早く動く」へ。厳しい市場を勝ち抜くオフィス戦略

ーーエリアごとの動きについてはいかがですか?たとえば渋谷はどうでしょう?
上岡: 渋谷は空室率が1.1%で、物件を選ぼうにも選択肢がほとんどない状況です。居抜きで敷金12ヶ月といった条件の物件でも普通に申し込みが入ります。どうしても渋谷を選びたいなら坪単価4〜5万円は覚悟をしないとですね。
三川:渋谷はホテル建設の需要が相変わらず強くて、オフィスを想定した入札額がホテルの入札額になかなか勝てないため、デベロッパーがオフィス用地を仕入れることが難しい状況です。金利上昇もあり、今後も新規供給は増えないでしょうから、オフィスの賃料は残念ながら上がる一方だと思います。
上岡:ですね・・・。待っていてもおそらく渋谷は下がることがないので、渋谷を希望していた企業も、積極的に検討エリアを広げています。ほんの少し渋谷から離れただけで坪単価は急に変わるので、事業計画や採用契約と照らし合わせながら適切なオフィスを選んでもらえたらと思います。
ーー最後に、これから移転を検討する企業の担当者に向けて、アドバイスをお願いします。

木幡:とにかく”早めに行動すること”を強くおすすめします。通常、移転検討は1年前から始めることが多いですが、今は2年くらい前からゆるゆると探し始めた方が絶対に得をします。そもそも空室が少ない中で、さらに条件の合う居抜きとなると確率は非常に低いです。良い居抜きがあれば移転時期を前倒ししてでも意思決定されることをおすすめします。実際に、本社は移転せずに分室だけ新たに探そうと考えていた企業が、良い居抜きに出会ったため予定を撤回して本社移転を決めたケースもありました。物件ありきで移転が決まっていくケースは今後も増えると思いますね。
上岡:早めの行動と意思決定は交渉においても有利に働きますよね。ある新築物件では、まだ足場が組まれている竣工前の段階で一番に申し込みを入れたことで、坪単価を2000円ほど下げる交渉に成功しました。早く決まると他フロアの呼び水になるので序盤は交渉しやすいケースもあります。”フロアがたくさん空いているからまだまだ余裕がある”ではなく、フロアが空いているうちが交渉のチャンスだと捉えて、早めに意思決定することが重要です。
三川:それと、空室率が下がっている今だからこそ、契約の審査通過率を上げるための工夫が今まで以上に必要だと思いますね。内見時からすでに審査は始まっているという意識で来ていただけたらありがたいです。内見時に「賃料は下がりますか?」などと聞くのはもちろん御法度ですし、横柄な態度もオーナーの印象を損ねてしまいます。また、”申込書で一発勝負”を心がけることも大事です。申込書が殺到する中で、あとからいろいろリクエストを出してしまうと、これもまた悪影響につながるので、希望条件はすべて申込書に最初に記載しておくこと。「これが叶ったら借ります」ときちんと意思表示しておくことでオーナー側もOKを出しやすくなるのです。
木幡:私たち仲介側からすると”相場価格”で且つ”状態の良い居抜き”なんて、そんな都合の良いものはほとんどない、というのが本音です(笑)。でも、まったくないわけではありません。必ず掘り出し物は出てきます。そうなった時にすぐ動けるように、事前に希望条件を整えてすぐ意思決定できるようにしておく。それが今のオフィス移転成功のカギになると思います。
ーー空室率の低下とコスト高騰という厳しい市況を乗り越えるためには、事前の情報収集と素早い決断が不可欠ということですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。

