PROJECT
2022/11/14
【ミカン下北】京王電鉄×ヒトカラで仕掛ける、商業施設×ワークプレイス×街の可能性
下北沢駅の再開発事業の一環として誕生した「ミカン下北」。その一角にコワーキングスペース「SYCL by KEIO」があります。オープンは2022年3月。今では下北沢の新しいワークプレイスとしてすっかり街に馴染み、想定を遥かに超えるスピードで利用者の皆さんがコミュニティの輪を広げ始めています。
これまでの再開発事業にはなかった、街とオフィスの新しい関係は、京王電鉄とヒトカラメディアによる共創型プロジェクトから生み出されました。京王電鉄が手がける再開発プロジェクト「ミカン下北」に、店舗ではなく、なぜ「働く場所」が盛り込まれたのか。企画・開発に携わった京王電鉄の柴田大輔さん、菊池祥子さん、さらにヒトカラメディア代表の高井淳一郎を交えて、発端から実現までの経緯と現状、その先の未来について語ってもらいました。
ヒトカラメディア
プロジェクトメンバー
「シモキタらしさ」ってなんだろう、からのスタート

-下北沢の駅の周辺、本当に大きく変わりましたね。
柴田大輔さん(以下、柴田):下北沢駅周辺ではもともと電車が盛り土の上を走っていましたよね。そこで小田急線が地下化と同時期に当社も鉄道を高架化することに。それにともなって駅周辺で大規模な再開発がおこなわれることになりました。私たちのチームは高架下のスペースの有効活用を担当しました。
それが京王井の頭線の高架下で2022年3月30日に開業した施設「ミカン下北」ですね。下北沢らしい、個性豊かな飲食店などが23店舗も入ったということで話題のスポットになっていますね。さらに、「SYCL by KEIO」がA街区の4階でコワーキングスペース、5階でシェアオフィスを展開しているのが独特な存在感を放っています。なぜここにオフィス空間を企画したのですか?
柴田:商業施設として何をやろうか、10年くらいうちのチームで検討してきました。その間も、たとえば2016年から3年間限定で「下北沢ケージ」という、高架下を屋外イベントスペースとして活用する企画がありましたけども、下北沢で何かイベントごとがあると面白がって集まってくる方々がいる。何かそうした人を引き付ける力がこの街にはあるんですよね。そこで築かれるコミュニケーションの中には新たなビジネスにつながるような「種」があることも感じていました。そこで、そんな街を魅力的にしていく仲間としてベンチャー企業を誘致し、その拠点としてオフィスを構えてもらい、商業プレイヤー×事業プレイヤーで街を変えていく取り組みをしたら面白いのでは、と考えました。

▲株式会社リビタ 運営事業本部(京王電鉄より出向) 柴田 大輔 様(左)、京王電鉄株式会社 開発事業本部 菊池 祥子 様(右)
-「ミカン下北」に入っているその他の店舗も個性的ですよね。
菊池祥子さん(以下、菊池):さきほどインタビュアーさんが「下北沢らしい」という表現をされましたが、「下北沢らしさ」ってなんだろうと、開発チームのメンバーで検討を重ねました。この地にはいろいろなこだわりを持った方がいらっしゃいます。表面的なものを「シモキタらしさ」として押し付けたら、この街の人は嫌がるんじゃないか。そこは気を付けるようにしました。
柴田:よく考えてみると下北沢にはもともと飲食でもアパレルでも個性的なお店が多いですよね。商業施設をつくっても、普通のブランドやチェーンのショップをテナントに入れるのでは厳しいし、すぐに陳腐化してしまうかもしれない。そうした店舗以外の何かを仕掛けたい。そう思ったんです。
-鉄道会社として長いスパンで街と付き合ってきたからこそ得られた視点ですね。
柴田:店舗のように、お店の運営を目的としてスタッフを配置するという考え方ではなく、その地に拠点を構え根付いていく。継続性、積み上げていくものがオフィスにはある。豊かなポテンシャルのある下北沢に必要なピースなんじゃないかなと。
もしこれがうまくいったら、夜間人口メインのシモキタに昼間人口も増えて、商店街も喜ぶし、ビルの上層階がオフィスで埋まればビルオーナーも喜ぶし、それにより新しいお店が増えれば地域住民も喜ぶ。新しい企画や事業を生み出そうとしているベンチャー企業系のプレイヤーは、豊かな文化を育んできたシモキタの街とも相性がいい。それで街が魅力的になって、移動需要が生まれれば、私たち鉄道会社もハッピーですよね。
「ロマンとそろばん」の両輪でプランが進む
-そうした街づくりのためにヒトカラメディアに声をかけたのはなぜですか?
柴田:以前、新宿でヒトカラメディアさんとスペースを活用するプロジェクトに取り組んだことがあるんです。ベンチャー・スタートアップに強くオフィスプロデュースや場づくりを手掛けてらっしゃる、というところはもちろんあるのですが、時間のないなか、マネタイズを前提としながらその場を魅力的にしていくことについて、徹底的に深掘りしてこだわってくれる。その熱量がすごかったんです。このみなさんとなら、僕らだけではたどり着けない領域に到達できるのではと思いました。
高井淳一郎(以下、高井):京王電鉄さんからご相談があったときに、すでに将来的な開発段階に応じてゴールや目的が整理されていたんです。一般的にはどうしても短期的な「点」で収益性のみを考えてしまいがちな再開発について、施設がオープンした先のことも見据えて、10年後、20年後にこの街がどうあってほしいかというビジョンまで検討されていて、腰の据わった長期的な時間軸を持って取り組んでいるんだな、ということに心を動かされました。

菊池:当面の収益性はもちろん大事です。でも、その背景として当社の電車、バスに乗ってくれる人が増えることも大事。そうしたことが複層的に考えられる会社ではありますね。
柴田:そもそも電車を走らせてその動線上の集客を軸にビジネスを展開するという、旧来の鉄道事業のモデルだけでは厳しいです。東京都の生産年齢人口は2050年には2020年比で30%減っていきますし、その時点で赤字事業に転落してしまうことも想像できます。ですから、私たちは、新しい私鉄ビジネスモデルへの変換を迫られている。不動産賃貸業においても、目の前の不動産の賃料の最大化ばかり目指していては、私たちのマーケットである「街」を消耗させるだけ。複層的かつ長期的に沿線の地域に関わって、再開発に取り組むべき状況だと考えていました。
--そんな京王電鉄さんへの提案内容は、どのようなことが切り口になりましたか?
高井:下北沢というと、古着や音楽、演劇などサブカルチャーの印象が強いですよね。でも、そこの本質を深掘りしていくと、「新しいことやマイナーなことを受け止めてくれる空気感」というところが下北沢の魅力の源泉なのではないかと考えるようになりました。誰も否定しない。やっちゃっていい。非常にベンチャー的というか、スタートアップ的というか。たまたま今はファッションやエンタメ領域が色濃いのですが、この10年くらいの間に立ち上がったスタートアップ企業にもけっこうハマるのではないかなと感じました。

-このプロジェクトに取り組むうえで気を付けたことはありますか?
高井:ヒトカラメディアは共創型のプロジェクト推進にこだわりを持っています。常に柴田さん、菊池さんと近い目線で検討やアウトプットづくりをすることにこだわりました。コンセプトを描くだけでなく、実際に社内に説明するためには「で、実際どれくらい収益を想定できるの?」という問いに答えないといけないですしね。
社内でよく「ロマンとそろばん」という言葉を使うのですが、一見良さげで共感が集まりそうなプロジェクトであっても、ビジネスとして取り組む理由が会社として説明がつかなければ、実現性ないしは継続性はかなり低くなってしまう。結果、思い描いていた状況づくりも不発に終わってしまう。この両輪をどう回していくかを意識していました。
ほかの駅でも「街を魅力的にする仲間」を集めたい

-プロジェクトについて京王電鉄社内からの反応はいかがですか?
柴田:当初はまだまだ商業優位論が根強く、オフィステナント=お金という風に見る方も多かったですね。街の風景や暮らしにダイレクトに変化をもたらせる商業の方が面白い、オフィスはそこまでの影響力はないから賃料収入以上でも以下でもない、と。でも、そうではなく、SNSが発展し、ECやD2Cが台頭してきているこれからの時代は、2C向けに事業を展開する店舗を構えない事業プレイヤーでもその街に面白いことが起こせる。そういうことを何度も社内で説明し、ワークショップ形式で部門内の有志メンバーを巻き込んで、さまざまな議論をしていきました。
菊池:社内的には、そういったオフィス起点で起こるコトの価値も伝えつつ、収支面ではきちんとクリアできるようにヒトカラメディアさんに事業設計でもサポートしてもらったので、事業性という面での説明は大きなブレーキなく理解をしてもらえました。
-オープン後の手ごたえは?
高井:まだミカン下北、SYCL by KEIO、どちらもオープンして数ヶ月なのですが、オープンして比較的すぐに、というかオープンする前から、描いていたイメージがどんどん具体化していく状況を目の当たりにしました。
運営面でオープン前からミカン下北のテナントさん(飲食・物販)を巻き込んできたこともあって、いろんな方面から「こういうことできないか」と相談をもらったり、オープン後も大小様々な出来事が起きています。
シェアオフィス・コワーキングやオフィス区画も下北沢のオフィスマーケットのポテンシャルを感じさせる反響があり、確かな手応えを感じています。

写真/伊藤洸太(kizlily)
柴田:この仕組みだったら当社沿線に横展開できる。テイストややり方は変わるけれども、街を魅力的にする仲間を集めることは、ほかの駅でもできると思います。その先に京王沿線の発展、京王電鉄の発展があるんだろうなと。(仲間を増やしていく)このような仕組みをほかの駅、ほかの街に広げることを今後やっていきたいですね。
菊池:「下北だからできたんでしょ」と言われるのは悔しいですし(笑)。ここだけで終わらせたくない!

取材協力/京王電鉄株式会社
取材・文/渡辺圭彦
撮影/編集部(特記以外)
編集/ヒトカラメディア編集部、介川亜紀
ヒトカラメディア
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