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2024/8/29

進化する教育施設。”学びの場”がいま求める空間とコミュニケーション

近年、大学などの教育施設では、コワーキングスペースや共創スペースなど、学生と企業の人が出会ったり、地域の課題解決を積極的に行うなど、社会とつながる場づくりに取り組む動きが活発になっています。それにともない、ヒトカラメディアでも、学校関連のプロジェクトの相談が増えています。なぜ学校がこのような活動を行っているのか、その背景と課題について、ヒトカラメディアで空間プランニングを担当する八塚と廣野、そして施設運営やコミュニティ醸成を担う影山に話を聞きました。

1. ”学習の場”からコミュニケーションの場に変化

↑写真:東京工業大学附属図書館

――最近、ヒトカラメディアにも相談いただくことが増えていますが、今回は「教育施設ではどんな空間やコミュニティを求めているのか」というテーマを考えていきたいと思います。皆さんから見て、学校関連で気になる世の中の動きを教えていただけますか?

廣野 雄太(以下「廣野」):私は2010年から2015年まで大学図書館の設計を行っていて、大学院在学中に母校の東京工業大学の大岡山キャンパスの図書館に携わりました。他にも九州大学、京都女子大学などのプロジェクトにも関わってきました。

もともと、大学図書館は館内に本棚がずらっと並んでいて、窓際に勉強スペースが少しあるといったデザインが一般的でしたよね。しかし、ここ10年くらいでラーニング・コモンズが浸透してきて、本を読むスペースよりも勉強やコミュニケーションを取るスペースが必要であるという傾向になってきています。

最近も、大学内のスペースのリニューアルに関するご相談がありますが、コロナ禍を経て、大学側としては、図書館などを積極的に使う学生が減ってしまっているという課題感があるようです。弊社のインターン生に「どうしたら大学図書館に行くと思うか?」を聞いてみたところ、「コンセントやWi-Fiがつながらないと・・・」といった意見が多くて。本を借りるだけの図書館にはメリットを感じづらいようです。 

そんな中、久しぶりに大学のキャンパスを歩いてみたところ、学内で仲間と話す場所というのが食堂以外にあまりないなと感じました。そういったところに大学図書館の変革のヒントがあるのではないかと思いました。

八塚 裕太郎(以下「八塚」):学内で話す場といえば、最近では大学内にグループワークなどができるラウンジを設けるなどして、友人とコミュニケーションを取ったり、情報交換をしたりする場を作る学校が増えてきています。その傾向のきっかけは、東京大学が2008年に設立した東京大学大学院情報学環・福武ホールだと思います。この施設はグループワークや共に学ぶことの重要性をコンセプトとしてスタートしています。

↑写真:東京大学/福武ホール(学環コモンズ)

それまでは大学の建物は講義室と廊下だけで、グループワークを行う場所がありませんでした。福武ホールができた2000年代後半以降から、講義室の横の廊下スペースにグループワークができる場所を作る、といった動きが生まれてきました。

今、大学では学生に社会実践の機会をどのように作っていくかが大きな課題になっています。単位所得の1カリキュラムとしてインターンが認められてきているのは、現場で起こっていることを実際に目前とした際に、身につけた知識をどのように使えるかを探る時間になっているからだと思います。大学が社会と接続し、社会で役立つ場としての役割を担うならば、それに出会う機能を、どう大学に取り入れていくかがポイントでしょう。

 

影山 直毅(以下「影山」):八塚さんが大学側の課題として「現在は社会との関わりといった流れが来ている」とお話されましたが、そのアプローチ法は大学によって異なるのかなと思います。”学内”に外の人と出会える場を作る大学もあれば、”学外”にそういう場を作る大学もあります。基本は”学内”である場合が多いと思うんですけれど、その流れについて、八塚さんはどう思われますか?

↑写真:島根県立隠岐島前高校(視聴覚室)

八塚:大学の中に作る場合は、起業家をはじめ、勉強になるようなビジネスを展開されている方を外から招いて、学生との接点や機会を作る、そういった空間を設ける、というケースが多いように思います。逆に、社会の現場側に拠点を持つ場合だと、その課題により近づけるでしょうね。

また、最近ではキャンパスのある街の人と学生が共同で使えるような拠点を持つ大学や研究室もたくさんあります。島根県の隠岐島前高校では、「地域共創科」という新しい学科を立ち上げることをきっかけに、「共に未来をつくる」というコンセプトを掲げ、地域にもひらけた場所を作ろうということで視聴覚室をリニューアルしました。その際、ヒトカラメディアでは教員・生徒を巻き込んだワークショップの企画運営、空間デザインを担当させていただきました。このように、大学をはじめ、さまざまな学びの場において、社会との接点を持つ方法をいろいろ探したり試したりしている最中だということだと思います。

2. 課題意識の高い学生のニーズに、どのように応えていくか

影山:以前、ヒトカラメディアで施設の立ち上げと運営を担っていた東京・有楽町の『Tokyo Innovation Base』では、大学でアントレプレナーシップを学んでいる学生や起業やスタートアップに興味のある学生を8名ほどインターン生として採用していました。 彼らは自分で「コト」を作って進もうとする気概のある人が多くて頼もしかったですね。「私はどういうことを生み出せるのか?」「どう役に立っていけるのか?」といったことをすごく意識していました。

インターンに関しては今や多くの人が経験していますが、それは就活に役立てるためだけではなく、「社会の中で自分の力をどう発揮できるか」という経験を彼らが求めているからという気がします。

――ヒトカラメディアでは関西でのプロジェクトもありますが、大学のそういった流れは関西と関東で違っていたりしますか? 影山さんは大学でコミュニティ醸成や場づくりに関する講演を行ったり、所属するプロジェクトデザイン事業部では関西の企業のプロジェクトも手掛けていらっしゃいますがいかがでしょうか?

影山:関東でもさまざまな大学が積極的に取り組んでいますが、関西ではその流れがより加速しているような気がしますね。たとえば関西学院大学は来年春に神戸三田キャンパスに学生寮×インキュベーション施設×商業施設というコンセプトの施設「KSC Co-Creation Village」を作る予定だそうです。まだ皆さん模索されている状態だと思いますが、関西の学校も、起業、イノベーションをどう取り入れるかという流れになっています。

また、大学単位ではなく、ゼミや研究室ごとにキャンパスの外へ出ていき、社会の中でさまざまな取り組みをされているケースも増えているようです。私たちが運営するシェアオフィスやコミュニティスペースもそういったニーズに応えながら、何か一緒に取り組めたらいいなと思っています。

――関西ですと、京都の学生で起業やプロダクト開発に興味ある学生が自由に使えるスペース「ハッカソンハウス」をヒトカラメディアで少しお手伝いしましたね。

廣野:はい、この『ハッカソンハウス』は以前もあったのですが、大学在学中にかつてのハッカソンハウスで貴重な体験をした起業家の方が、今の学生に対しても同じように機会や場を設けてあげたいという思いから復活させたものなんです。ヒトカラメディアではその京都の『ハッカソンハウス』の内装のお手伝いをさせていただき、東京・本郷に『ハッカソンハウス』を立ち上げる際は物件仲介を担当させていただきました。同じ興味や志を持った学生たちがお互いに刺激し合って開発に取り組める環境がそこにはあります。そんな空間のお手伝いができて嬉しいですね。

3. 企業事例やまちづくりの中にも、教育施設のためのヒントがある

――ヒトカラメディアはオフィス移転の支援を中心に手掛けてきましたが、最近は大学をはじめとした教育施設の空間づくりのお仕事の話をいただくことが増えました。それは大学側にもっと働くこと、起業といったことに近い要素に取り組んでいきたい、という流れがあるということですよね? 

八塚:そうですね。一人ひとりがそれぞれのテーマや課題に向き合って勉強に励むのが大学という場所でしたが、今は感じた課題をみんなで”共有”して歩んでいけるように合意を図っていく場所に大きく変化しています。それに合わせて大学も企業も街も、変革している過渡期にあります。そんな中で、ずっと校舎や教室のデザインを行ってきた企業や設計事務所ではなかなか突破口を見つけられないのかもしれません。例えば講義室の設計について「社会との出会いを増やしたい」と言われても、何をデザインして良いのかわからないでしょう。

廣野:最近、「帝京大学イノベーションゲート」という場所のリニューアルを担当させていただいたのですが、まさにそれでした。帝京大学の板橋キャンパスではラーニング・コモンズを作るというプロジェクトが立ち上がり、東京都の大学発スタートアップ創出支援事業の10大学にも選ばれのですが、従来の教室ではないものを急に作ろうとしてもなかなかヒントが見つからない・・・ということが起こっていました。そんな時に弊社が手掛けているオフィス作りや古民家を改修したコワーキングスペースなどの事例がヒントとなることがあります。大学の担当者の方に弊社の事例を見せると、「こういう場面でこういう空間の使い方ができたらいいですね」とアイデアが広がっていきます。

八塚:働き方そのものがやはり大きく変わってきて「あなたはこのタスクしてください」って言われて、そのタスクをずっとしてればいいわけじゃなくて、より良い社会になるようにどうサービスを改善していけるか、どんな働きかけが必要かも含めて仕事、というふうに 変わってきていると思います。主体性というか内発的動機が大事というか・・・。

そうなると、大学や学びの場においても、社会の課題を周りと共有しながら一緒に解決していける人材を必要とするようになります。働く場の伴走支援を長く手掛け、コミュニケーションの図れる空間やプログラムを設計してきたヒトカラメディアはそれをよく理解しているので、最近ご相談いただくことが増えているのかもしれないですね。働く場づくりの実績や経験を生かして、今後も学びの場に携わっていければと思っています。


取材・文/鈴木はる奈