PROJECT
2024/4/17
プレイヤーもユーザーも面白がれる場に。静岡鉄道が自社ビルをリノベーションし仕掛ける、エリア密着型フードホール
2024年3月24日、ヒトカラメディアが企画/設計を手掛けたフードホール『OTOWA FOOD HALL SHiiiTO』が静鉄電車 静岡清水線・音羽町駅直結の商業施設にオープンしました。オープン初日から店頭に行列ができ、期待と注目度の高さがうかがえました。静岡鉄道が保有する築40年超の自社ビルをリノベーションし、フードホールへと転換させたこのプロジェクト。新たな命と役目をどのように吹き込んでいったのでしょうか。
ヒトカラメディア
プロジェクトメンバー
伊藤 陵
亀井 一帆
1. プレーヤーの顔がちゃんと見えるフードホール
――まずはじめに、『SHiiiTO』の背景にある静鉄グループの将来構想「しずてつ未来プロジェクト」について教えていただけますか。
静岡鉄道・石川貴之 様(以下「石川」):2020年から始まった『しずてつ未来プロジェクト』は、静岡鉄道の沿線の価値向上を大きなミッションとして、「みんなでつくる 日常が特別な街」をコンセプトにこれまでいろいろなことを仕掛けてきました。私は主に物件開発とイベント企画を担当していまして、シェアオフィス・コーキングスペースの企画運営、今年の3月にはシェア型社員寮『SUBACO』をオープンさせたところです。『SUBACO』は静岡に拠点がある企業の若手社員のための社員寮で、入居者がお互いに刺激し合いながら成長できる場にしていきたいと思っています。イベントで言いますと、電車内でプロレスの試合を行ったりしました。開発もイベントも、コミュニティを作りながら今まで接点のなかった人たちが出会うことによって新たな価値やビジネスが生まれたらいいなと思いながら手掛けてきました。
ヒトカラメディア・伊藤 陵(以下「伊藤」):僕は静岡市で生まれ育って、もちろん音羽町の駅も何度も使ったことがありましたが、正直なところ、この場所は地元の方々の声が見えにくい印象が最初はありました。なので、現場を拝見しつつエリア理解を深めるところから始めて、『しずてつ未来プロジェクト』のコンセプトをどう施設の運営やリーシングのコンセプトに落とし込んでいくか・・・ということを考えていき、同時に事業として成立させるために、どれくらいの投資が必要なのか検討するためのフィジビリティスタディも行いました。
――フードホールというと、ショッピングモールや大型の商業施設などにはたくさん見かけますが、フードホールだけが単独で、かつ路面にあるのはすごくめずらしいと思いました。とてもチャレンジングな選択だったのではと思いましたが、なぜ今回フードホールという形にしたのでしょうか。
静岡鉄道・大橋美咲 様(以下「大橋」):今回、静岡鉄道の沿線の価値向上や賑わいづくりということを考えていく中で、これまでと同じ不動産業のやり方で、店舗区画を割り当ててテナントさんに出店してもらい「あとはよろしく」というやり方は違うなと思ったんですね。テナントさんごとの活動や顔がちゃんと見えるフードホールにすることで、それを利用する地域の人たちも顔なじみの人ができたり、ゆるやかに繋がったり交流できたりするような、地域に密着した場を目指したいと思いました。『SHiiiTO』に訪れることで、いつも過ごしている日常が少しでも”ワクワク”したり”特別”な時間を過ごすことができる空間になればと思っています。
――テナントさんも、地元で注目されている個性的なお店ばかりですね。
大橋:そうですね。地域の方に親しまれていたり、愛されていたり、魅力がたっぷりのテナントさんたちに今回は出店をお願いしました。「静岡やこの音羽町を一緒に盛り上げていきたい」とか「地域の人ともっと繋がっていくためにはどんなことを仕掛けたらいいのか」などを一緒に考えてくださるような熱い想いをもったテナントさんが揃っています。
2. 各テナントを生かす“器”としての空間設計
――空間設計のお話も聞かせてください。今回は、もともとスーパーマーケットだった区画のリノベーションでしたが、飲食と物販の混合で、建物も古く、空間設計は複雑で大変だったのではないでしょうか。
ヒトカラメディア・亀井一帆(以下「亀井」):1番苦労したところは、正直に言うと、実はフードホール内ではなくフードホールの外の区画も含めた検討もしなくてはならなかったことです。工事を進めてみると、残っていた図面と違う部分もあったりして、現在の建築法と照らし合わせながらビル全体や他の施設との調整を行うのがすごく大変でした。
フードホールに関しては、影に回るかというか、それぞれのテナントさんがよく見えることが一番大切だと思っていたので、各テナントさんをどう生かすか、どういう器だと各テナントさんが引き立つのかというところを意識しながら設計をしていきました。
あとは、やはり、最後の方で「どうしてもやりたい!」と静鉄さんが粘ってくださった箇所が、最終的な成果物としてよい形を作ってくれているように思います。
――具体的にそれはどういった部分なんですか?
亀井: 1番はやっぱり入り口の窓ガラスですよね?
石川:そうですね。静鉄の社内では「こんなタイミングで何を言い出すんだ…」みたいな感じでしたが(笑)、「いや、絶対にもうこれじゃないとダメだ」くらいの感じで押し切りました。
亀井:その窓ガラスは古いままでも問題なく使えたんですが、本当にやってよかったですよね。もともと鉄だったサッシを木製にしたんですが、リノベーションの良さを残しつつ、空間に一気に温もりが生まれた気がしました。
石川:私としては、施設のコンセプト作りからずっとヒトカラさんと一緒にやってきて、“ここまでやったね”と思える何かを形に残したいという思いもありました。
3. コンセプトの整理と言語化、それを本質的に共有することで生まれるインパクト
――グランドオープンから1週間ほどが経ちましたね。初日はどんなお気持ちで迎えたのでしょうか。
石川:不思議と、ずっとここにあったような感じがしていました。来ていただいたお客様も「オシャレだねー」なんて言いながらも、普通に長居していたり、お客様同士が声を掛け合って相席していたりして。エッジが立っているにも関わらず、自然体でいてくれている感じがすごく嬉しかったです。ウチの会社でやりたいまちづくりってこういうことだな、と思いました。
亀井:僕は、グランドオープンの3日前ぐらいに現地で仕上がり状況を確認していたんですが、グランドオープン当日、お客様が実際に入られているところを見て、やっと命が宿ったなと思いました。空間が出来上がっただけでは完成ではなく、人が使ってこその場づくりだと改めて思いました。図面上に線を引いている時に分からないこと、見えないことがまだまだあるし、お客様に空間の良さを教えてもらった瞬間でした。
▲静岡鉄道株式会社 不動産ソリューション事業部 事業戦略課 特命課長 石川 貴之 様(左)、不動産ソリューション事業部 事業戦略課 主任 大橋 美咲 様(右)
大橋:今回、ヒトカラメディアさんに施設のコンセプト作りからプロジェクトに入っていただいたことがめちゃくちゃ大きいと思っているんですね。当社だけで考えていたら、「ここでこういう状況を起こしたい」とか「こんなこともあり得るかもしれない」という仮説や検証をあまり深めないまま、ただただ空間作りや運営に突っ走り、当社側に寄せた施設になっていたと思うんです。
コンセプトから一緒に積み上げていく段階で「こんなことを考えています」とお伝えすると、「では、こういう整理になりますか?」「これってこういうことですか?」みたいなキャッチボールが始まる。その言葉の定義であったり、考え方を整理していただいたことが本当に大きかったなと今改めて思っています。
そういう目に見えないものというか、ソフト面の価値って、少し乱暴な言い方をすると、不動産開発においては“あってもなくてもよいもの”になりがちなんですよね。一応、形だけのコンセプトはありつつも、機能的価値が満たされていればいいという考え方もなくはないじゃないですか。でも、今回はその部分を丁寧に作ったからこそ、我々がリーシングする時にも言葉に思いがちゃんと乗って伝わっている実感がありましたし、空間という箱の中にちゃんとそれが集約できた確証があります。それをこれからもっともっとお客様が感じ取ってくれたらいいなと思っています。
亀井:ありがとうございます。そうなんですよね。新しい施設や場の立ち上げを普段からやっていて、私も同じように感じています。分かりやすくて、なおかつ周囲にも伝えやすいコンセプトやキーワードを、プロジェクトを推進する人たちで本質的に共有できているかどうかって、想像以上に大切ですし、振り返ってみると大きな成果をもたらしてくれるものなんですよね。
――最後に、今後の『SHiiiTO』について、この場所でやってみたいことや今考えていらっしゃる構想はありますか?
大橋:地域の方もテナントの方も、面白がっていただけるような場所になれたらいいなと思っています。地元の方からの発信で何か企画してみても良いですし、ただのフードホールで終わることなく、仕掛ける方も参加する方も楽しめる場所に育てていきたいと思います。
【空間デザインの全貌はこちらから】
取材・文/ヒトカラ編集部
ヒトカラメディア
プロジェクトメンバー
伊藤 陵
亀井 一帆





