オフィスを構える多くの企業から聞こえてくる「会議室が足りない」という声。それは単純に会議室の数を増やせば解決するのでしょうか?「会議室づくりの第一歩は、現状を正しく把握し、本当に必要なものを見極めることから始まります」と語るのは、数々のオフィスの会議室を手がけてきた、ヒトカラメディアの空間プランナー・廣野。今回は廣野に、会議室づくりの考え方や”その会社らしさ”が表われたユニークで優れた事例について話を伺いました。
ヒトカラメディア
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1.まず”本当に必要な会議室”を見極める。目的と用途の深掘りから始めよう
――「会議室をつくりたい」というお客さまに、廣野さんはまずどんなポイントからヒアリングしているのでしょうか?
まずベーシックなこととして、「何人用の会議室が、何部屋必要なのか?」という問いから始めます。 今のオフィスの会議室は何部屋ですか? 足りていますか? 足りていませんか? と伺うと、ほとんどのお客さまが「全然足りないので増やしたい」とおっしゃいます。
そこからさらに「どういう使い方をしていますか?」と深掘りしていきます。 その答えを大きく分けると、①社外向けの会議、②社内メンバーだけの会議、③オンライン会議のために1人で使っている、という3つのケースです。
最近は、この③が原因で、「会議室が足りない」と感じているケースが非常に多いんです。 会議室を1人で使ってしまうと、当然他の人が使えなくなりますよね。ですから、まずその需要が多い場合は、1人用のフォンブースで代替できませんか?」と、目的と用途を切り分けるご提案をすることが多いです。
――なるほど。”足りない”という課題に対して、いきなり会議室を増やすのではなく、まず用途を整理するのですね。
そうですね。ほかにも、②の用途が社内のブレスト会議や部署の定例ミーティングなど、機密性がそこまで必要なさそうな場合は 「その会議、本当にクローズの会議室でやる必要がありますか?」と問いかけることもあります。
オープンなスペースで話した方が、周りの人にも「あのチームは今、あんなことをやっているんだな」と伝わって、社内の情報共有やコミュニケーションの活性化に繋がる場合もあるからです。
もちろん会社の文化にもよりますが、言われた通りに会議室を作るのではなく、その他のスペースの活用もふまえながら、よりその会社らしさが際立つプランニングができると考えています。 お客さま自身も、これまで会議室でやっていたからというだけで、オープンな場所でもできる議論やミーティングがたくさんあるということを認識していないことが意外と多いです。
▲キュービック社のオープンスペース。部署の共有会などをステージで実施することで、インターンをはじめ、社員が他チームの活動を自然に把握できる環境を実現。情報共有と社内コミュニケーション活性化の効果を狙っている。
――会議の相手が社内か社外か、という点も重要とのことですが、それによって何が変わってくるのでしょうか?
一番大きいのは、セキュリティとゾーニング(空間の区別)です。 最近のオフィスは、執務エリアにセキュリティドアを設けていることが多いので、来客用の会議室は社員が入るエリアの手前に配置するのが一般的です。 一方、社内会議室は執務エリアの中に作ることで、社員がスムーズに利用できます。
でも、正解はその一択ではないんですよね。来客用会議室までの動線を、あえて執務スペースを通すことで、会社の雰囲気やカルチャーを来客に伝えるというパターンもあります。
2.会議室は会社の”らしさ”を伝える装置。デザインでコミュニケーションを設計する
――社外向け、社内向けという用途の違いは、デザインにも影響するのですね。具体的に、どのような工夫をされるのでしょうか?
社外向けの会議室では、来客される方がどういう相手かまでヒアリングし、株主や金融機関の方など、しっかり応対する必要がある相手の場合はシックなデザインをご提案します。
一方で、採用面接で使う部屋であれば、会社の魅力を伝え、候補者に「この会社で働きたい」と思ってもらえるような、明るく元気なデザインにする、といった具合です。
最近、私が担当したプロジェクトで食品事業を手がけていらっしゃる株式会社Antwayさんのオフィスでは、来客ゾーンに2種類の会議室を用意しました。 3部屋は落ち着いた雰囲気の応接用、残りの3部屋は野菜をイメージしたビタミンカラーを使い、”元気な会社”という印象を与えるデザインにしています。 採用面接で訪れた方に、会社の”らしさ”を感じてもらうための工夫です。
――会議室に個性的な名前をつける企業も増えているように感じます。これも”らしさ”の表現のひとつでしょうか?
そうですね。会議室の名前は、コミュニケーションのきっかけやアイスブレイクになります。例えば マネーフォワードさんはお金にまつわる偉人の名前をつけていたり、ヒトカラメディアが手掛けた株式会社リーディングマークさんのオフィスは、社名にちなんで世界中の港の名前をつけています。 また、ある会社では行動指針を各部屋に名付け、日々の業務の中で自然と理念を意識してもらう、といった狙いもあります。
――デザインや名前以外にも、会社の姿勢を表現するようなユニークな会議室の事例があれば教えてください。
ある会社では、オフィスの中心に「チャレンジステージ」というミーティングスペースを設置しました。 これは、実用性を追求するというよりも、刷新したばかりの企業ミッションとリンクさせて、会社が大事にしていきたい価値観を象徴するスペースとして作りました。
このように、会議室の配置や作り方ひとつで、企業のメッセージを伝えたり、カルチャー醸成に繋げることが可能です。
――用途を限っている会議室、たとえば1on1ミーティング専用の部屋などでは、どのような工夫がありますか?
株式会社キュービックさんのオフィスでは、1on1用の部屋を多数作りました。 特徴的なのは、席の配置です。 対面で座るのではなく、お互いが少し斜めになるようにレイアウトしました。 こうすることで、対面の圧迫感が和らぐだけでなく、実は省スペースにも繋がります。 対面だと机と椅子2脚で一定の奥行きが必要ですが、斜めにすることで、同じ面積でより多くの部屋を作ることが可能になるんです。
3.”わざわざ集まる意味”が問われる時代。会社の未来を見据えた会議室とは?
――リモートワークが普及して、会議室のあり方に変化は感じますか?
”わざわざ集まる意味”がより強く求められるようになったと感じます。 ありきたりな会議室なら、オンラインで十分、となってしまう。 だからこそ、中途半端に作るのではなく、会社の意思や目的を明確に反映させた、振り切った会議室が増えている印象です。
ただ会議ができればいいという考え方ではなく、どうせ作るならもうひと工夫凝らして、狙った効果を出せる空間にしましょう、というご提案を私たちもしていますし、お客さまからも求められることが多くなりました。
――会社の顔として会議室に力を入れる会社もあれば、社員が働く執務室環境の充実に力を入れる会社もあります。この違いはどこから来るのでしょうか?
「その企業が誰に何を伝えたいか」という姿勢の違いだと思います。 例えば、ある会社さんへのご提案では、東京進出にあたり、大きなクライアントを獲得していくフェーズにありました。 そのため、来客者が「この会社は勢いがあるな」と感じるような、アウターブランディング(社外への魅力発信)を意識した会議室づくりを優先しました。
一方で、マネーフォワードさんのオフィスのように、執務環境を充実させることで”社員を大切にしている”というメッセージを発信し、インナーブランディング(社内への魅力発信)や採用力強化に繋げている企業もあります。
もちろん、どちらが良いということではなく、優先順位やバランスが企業ごとに異なると考えています。
――企業の成長フェーズによっても、求められる会議室は変わってきそうですね。
変わりますね。特に影響が大きいのは、10人以上が入るような大会議室です。 スタートアップや成長企業の場合、今は8人用の会議室で良くても、1〜2年後には部署や役員が増えて手狭になる可能性が高い。 ですから、一番大きな会議室を設計する際は、将来的に人数が増えても対応できるよう、補助的なベンチを置けるスペースを確保しておく、などの提案をします。
たとえば、株式会社ケップルさんのオフィスでは、壁にベンチを設けることで、参加者が増えても対応でき、普段は荷物置きとしても使える、というアイデアが実現されています。
――最後に、廣野さんが考える”良い会議室”とは、ずばりどのようなものでしょうか?
使う人自身が、「この部屋で、こういう会議ができそうだ」という具体的なイメージを自然と持てる会議室が”良い会議室”なんじゃないか、と思います。
たとえば、「この部屋なら採用面接がうまくいきそうだ」「ここなら経営会議がスムーズに進みそうだ」「この部屋は勝負をかけたい商談で使おう」といったように、利用シーンがぱっと浮かぶような。そのためには、会議室の中だけでなく、その周辺の環境も大切です。
以前手がけたオフィスでは、会議室のすぐ外に小さな打ち合わせスペースを設けました。 会議が終わった直後に「さっきの件、ここだけ決めちゃおう」とすぐに次のアクションに移れたり、熱が冷めないうちに振り返りができたりする。 「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ」という名台詞があったりしましたが、会議がうまくいくためのアイデアは、会議室の外にもあるのかもしれません。
取材・文/坂口 ナオ

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