PROJECT
2023/6/7
家具とゾーニングから場の体温を0.2℃上げる、日本最大級コワーキングスペース『KOIL パーク』のリニューアルプロジェクト
次世代のスマートシティとして注目を集める柏の葉キャンパスに2014年4月に開業したインキュベーション施設「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」。『KOILパーク』はその中にある日本最大級のコワーキングスペースで、ヒトカラメディアは今回、この空間のリニューアルを任されました。壁がひとつもない 約233坪(772.04㎡)の空間を家具やレイアウトの変更だけでいかに生まれ変わらせるか・・・。『KOILパーク』を支えるコミュニティマネージャーの大須賀芳宏さんと施設運営を担当する川野友有希さん、そしてヒトカラメディアのプランナー・松原大藏を加えた3名で本プロジェクトを振り返ります。
ヒトカラメディア
プロジェクトメンバー
1.大型コワーキング施設の第一世代として

――まずはじめに、お二人はこの『KOILパーク』でどんな役割を担っていらっしゃるのか、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
大須賀芳宏 様(以下「大須賀」):私は開設準備段階からこの施設に携わっています。10年ほど前のことになるので、当時はまだ“コワーキングスペース”と言っても誰も知らないし、使ったこともないし、立ち上げ期はいろいろ苦労しましたね(笑)。もちろん、“コミュニティマネージャー”という言葉もありませんでした。でも、ひとつのオフィス空間に多様な人が集まっていたとしても、隣同士で座っていただけでは何も起こらないですし、「スタバから何も生まれないのと同じです」ということを当時から事業主さんに繰り返し伝え、「繋がるきっかけを作る人が絶対的に必要だからそれをやらせて欲しい」と言って、施設のマーケティング業務を担いながら、今でいうコミュニティマネージャーの仕事もやらせていただいていました。

▲『KOILパーク』コミュニティマネージャー 大須賀芳宏 様
――当時はどんな肩書きだったのですか?
大須賀:コミュニケーションディレクターです。『KOILパーク』の会員様同士のコミュニケーション、会員様と街の人とのコミュニケーション、それと、KOILという耳慣れない施設のマーケティングコミュニケーション。この3つのコミュニケーションを担っていました。その後、その役割や重要性も理解いただけるようになり、今はコミュニティマネージャーという肩書きで『KOILパーク』の運営を担っています。
川野友有希 様(以下「川野」):私は2019年から『KOILパーク』の施設運営を担当しています。大須賀さんが会員様のビジネス支援や会員間のコミュニティ作りを主に担当されていて、私は主に受付スタッフとともに会員様の日々の施設利用に関するサポートや、会員様同士の交流イベントなどを行っています。
――今年でオープンから9周年を迎える『KOILパーク』ですが、今回のリニューアルプロジェクトはどういった背景や課題感から立ち上がったんですか?はじめは、家具を入れ替えるだけのプランだったそうですね。
大須賀:10年前はまだコワーキングスペースというものが一般的ではなくて、『KOILパーク』は“大型コワーキング施設の第一世代”に位置付けられていました。前例のない中ですごいものが作れたとは思っていますが、その後たくさんのコワーキングスペースが出来てきて、当たり前ですが後発の方がどんどん新しくて個性的なものになります。『KOILパーク』は“コワーキングスペースとはどういう空間なのか”を非常に考え抜いて作られてはいるんですが、他にも個性的なコワーキングが出てきている中で、そろそろブラッシュアップした方がいいのでは?というニーズが出てきたというのが背景です。
2. メッセージを持たせた家具で、場の在り方や使い方を明確化する

▲三井不動産ビルマネジメント株式会社 『KOIL』施設運営 川野 友有希 様
――コロナ禍を経て、コワーキングスペースに対するユーザー側の意識も変わってきているかもしれないですね。
川野:それもすごくあると思います。おかげさまで会員様の数は増えているのですが、一部使いづらい造作があったり、座席の稼働率が低いところがあったりしました。2014年にオープンさせた時のコンセプトやデザインはすごく好きなのですが、さらに魅力や強みとなるものをプラスしていきたいなと思いました。
大須賀:あまり前例のない施設だったので、会員様の使い方など予測できない部分もありつつオープンしていまして、当初は“ちょこっと使い”を想定して設計していたところが、蓋を開けてみると長時間利用していただく方が想像以上に多かったんですね。ここに出勤して、ここから打ち合わせへ行って戻ってくるような方が少なくありませんでした。となると、一部の席は机が狭かったり、あまり使われない場所があったり、という問題が出てきました。
それと、空間が広い故の課題も抱えていました。いま「初めは家具を入れ替えるだけのプラン」というご質問をいただきましたが、そもそも『KOILパーク』は空間内に壁を一切設けていなくて家具だけで空間を分けているんですね。可変性があって、毎日のように小さなブラッシュアップができるのはすごく面白いのですが、それが悪い方に作用してしまうと図書館のようにシーンとしてしまい、雑談してはいけない雰囲気になってしまうんです。もう少し狭いと自然とザワザワとしたり、雑談や立ち話をしてもいい感じが自然と出たりするのですが・・・。
会員間のコミュニケーションをさらに誘発していきたいと考えた時に、もう少し気兼ねなく雑談ができるような空間にアップデートしたいと思い、それをどうしたら出来るのか?家具の配置でどこまで変わるのか?というのをヒトカラさんにご相談しました。
松原大藏(以下「松原」):ご相談をいただいた時、“家具だけでどこまでできるか”はすごくチャレンジだなと思いました。「要するに、家具にメッセージを持たせるっていうことですね」という話を最初にさせてもらったんですが、家具を使って「ここは集中作業に使いましょう」とか「ディスカッションはここでしましょう」ということを家具によって明確化していくことが大事だと思いました。そうすることで、こっちは静かになっているけど、あっちでは雑談が活発的にされている、といったような空間ができればと思いました。
大須賀:『KOILパーク』という場所においては、その明確化が決して“ルール”になってはいけないな、とは思っていて、そこはすごく大事にしたいと思っていました。大人が仕事をする場所なのでルールは少なければ少ないほどいい。
松原:何かを決めつけられること自体が気持ち悪いですよね。
大須賀:そうそう。ルールを作らずにいかに汲み取ってもらって使ってもらえるか。そこをヒトカラさんには読み取ってもらって、リニューアル案を練っていってもらいました。
3. 壁のない巨大ワンフロアのゾーニングプラン

――具体的に、どんなリニューアル案を考えていったのですか?
松原:まず、全体を「FOCUSエリア」と「LOUDエリア」という2つのエリアにゾーニングし考えていきました。「FOCUSエリア」は仕事にグッと集中できるような場所です。このエリアには、端の方にもともとハイカウンターがあったんですが、利用者さんは椅子をひとつ飛ばしで使っていたんですね。間に挟まれた椅子はただの荷物置きになっていました。どこまでが自分の席なのか分からないし、席の稼働率も悪い。そこで、一つ一つの席を広めに取ってあえて仕切りをつけました。
川野:そのハイカウンターは、今ではとっても人気の場所です。隣に他の利用者がいても気にせず伸び伸び使えますし、後ろからPC画面などが覗かれないように目隠しも作っていただいたので安心して使うことができます。
松原:『KOILパーク』の中では割と地味な場所ですが、些細な工夫で人の行動が変わってきて嬉しいですね。
――「LOUDエリア」の方はどのようなリニューアルプランを考えたんですか?
松原:一番のポイントは、新たにライブラリーも兼ねているリラックススペースを作ったことですね。元々ホワイトボードがあったところにL字に席を置き、グループで仕事したりブレストできたりするスペースとして設定しました。他の利用者の活動やプロセスが垣間見られる場所でもあります。そういったシーンが見られるようになると、共創空間としての雰囲気がより高まるかなと思い設計したのですが実際どうですか?ここが今回一番チャレンジングなスペースだったのでぜひ聞いてみたいです。

大須賀:一番変化が見られたスペースがここなので、実は今日はこのスペースの話だけができればと思っていたのですが(笑)、かなり良い感じですよ。3〜4名のグループが自社オフィスのミーティングルームのように使っていたり、ホワイトボードを使って1〜2時間ディスカッションしていたり、見ているこっちがニヤニヤしてしまうような場面が見られるようになりました。「それそれ!」みたいな。
川野:ソファに加えて後ろのカウンターも使うとけっこうな人数が集まれるので、社内プレゼンや共有会みたいなことをやられている方もいますよね。
大須賀:それを見た人が「そっか、ここは黙々と仕事をする場所じゃないんだ」「そういう使い方もあるのか」と気づいてくれて、だんだんと場の秩序が生まれてくる。それが一番の成果ですね。
4. 働く場における”体感温度”の上げ方

――リニューアル後、会員様の反応はいかがですか?
大須賀:めちゃくちゃテンションが上がっているというより、ちょっとだけ体温が上がってくれているような感覚があります。決まりきったガチガチのデザインというよりは、問いかけに近い“余白”のある空間なので、今回の新しい問いかけに対して会員様はそれぞれの答えを見つけ始めている段階だと思います。
松原:空間をリニューアルする時、体感温度を2〜3℃爆上げしようとして無理なゴール設定をしてしまいがちなんですが、僕らの生活は平熱である日常の方が圧倒的に長いし、仕事をするスペースってその日常の中にあるわけだから、上げるべき温度は0.1℃とか0.2℃がベストだと個人的には思っています。
川野:そういう心地よい温度だからこそ「長く居続けたい」と思ってもらえるような空間にしていきたいと思っています。ここで働くことで会員様の事業がどんどん成長したり、そのサポートができるような場所になれたらと思います。
大須賀:今回のリニューアル後、空間の使い方が多様になってきたり、「あの人とあの人がディスカッションしてる!」みたいなシーンが見えるようになったりして、『KOILパーク』自体の活気は以前より増しているように思います。あとは、ここからどうやって人の繋がりや共創関係を作っていくかですよね。それは自然発生的には生まれてこないものですが、パワーアップした空間の力も借りながらこれから作っていけたらと思っています。

編集/ヒトカラメディア編集部
ヒトカラメディア
プロジェクトメンバー





