PROJECT
2024/9/25
グラフィックやアートのあるオフィス。 クリエイティブ思考を刺激し、”気づき”をもたらすきっかけに
ヒトカラメディアがオフィスの空間設計を手掛ける際、グラフィックデザインやアートを導入するケースが増えています。「アート思考」という言葉にも注目が集まっていますが、実際にオフィスにグラフィックやアートを取り入れることで、どんな効果が期待できるのでしょうか。2024年7月に竣工したばかりの株式会社Mediowlの新オフィスで、グラフィックを担当したグラフィックデザイナーの宮下可奈子さん(デザインtoka)と空間プランニングを手掛けた辻村で「グラフィックデザインやアートのあるオフィス」について語ります。
ヒトカラメディア
プロジェクトメンバー
1. 執務エリアまで見渡せる空間を機能的に彩り、明るく開放的な雰囲気に
――竣工したばかりのMediowlさんのオフィスでは、会議室の壁と執務エリアを仕切るドアに、宮下さんが手がけたグラフィックデザインが施されています。どんな空間にすることを意識してデザインしましたか?
宮下可奈子(以下、「宮下」):閉鎖的なエレベーターから出た瞬間に気分が上がって、オフィスの奥へと進むのが楽しみになる空間にしたいなと最初に考えました。
執務エリアの入り口はガラスのドアになっていて、エレベーターの扉が開くと執務エリアまで見渡すことができます。そのとき、機械的なデスクや家具の並びだけが見えると、閉鎖的でオープンな感じがあまりせず、「会話しやすい雰囲気だな」「このオフィスに来てよかったな」という気持ちになりづらいだろうなと。
そこで、ガラスドアの足元部分にだけ明るいイメージのグラフィックを施しました。そうすれば、訪問した人は開放的な雰囲気を感じることができ、執務エリアの状態も見えて安心できるだろうと考えたんです。
――カラフルなグラフィックが特徴的ですが、Mediowlさんからはどんなご要望があったんですか?
宮下:女性スタッフの採用強化のために、女性に好まれそうな華やかなデザインにしてほしいというお話がありました。そこで、「未来を切り開くこと」をイメージして、色鮮やかな斜線を組み合わせたデザインを2パターンご提案しています。結果、選ばれたのが今回のデザインです。華やかさはありつつも、ビジネスシーンにマッチする力強いグラフィックになっています。柄を大きくしたことで発色がよくなり、Mediowlさんのロゴマークの色味ともよくマッチするグラフィックになったので良かったです。
――空間プランニングを担当した辻村さんは、最初になぜグラフィックを導入しようと思ったんですか?
辻村 茉樹(以下、「辻村」):今回の移転の目的のひとつに、女性の採用率をアップさせたいというものがありました。移転先の新オフィスは内装工事済みですぐに入居できるセットアップオフィスだったので、そのままだとシンプルすぎて淡々としてしまう可能性がありました。女性から見て明るく心地良いと感じるデザイン性の高いオフィスにするために考えたのがグラフィックの導入でした。グラフィックデザイナーの方と一緒にオフィスを作りたい、というのも私個人の目標のひとつでもありました。
エレベーターホールにガラス張りの会議室が隣接しているのですが、その横にある執務エリアへの入り口にガラスドアを新しく取り付けることで、L字型のガラス面が生まれました。「グラフィックシート(ビジュアルを印刷して貼りつけられるシート)を使って、この面いっぱいにグラフィックデザインを施したらどうか。そうすればエントランスからデザイン性が高く、連続性もある空間になりそうだな」と思ったんです。
――壁面に直接デザインを施すのではなく、あえてグラフィックシートを使ったのは、何か理由があるのでしょうか。
辻村:デザイン性だけでなく、機能性も兼ね備えているからです。実は移転前に、ロゴマークが変わるかもしれないというタイミングがありました。看板などでロゴマークを設置したあと、新しく取り替えるとなれば手間が発生します。そこで、簡単に張り替えることができるグラフィックシートをご提案しました。シートなら低コストで多彩な表現もできるので、コストをそこまでかけず、グラフィカルな空間に仕上げることができました。
▲デザインtoka グラフィックデザイナー 宮下可奈子
2. グラフィックのあるオフィスで、働く人に”気づき”を促す
――宮下さんは、平面だけでなく空間設計におけるグラフィックデザインやクリエイティブも手掛けています。オフィスにグラフィックを導入すると、どんな効果を期待できると思いますか。
宮下:まずは、言葉などのコピーに比べて直感的に作用する部分があるのでは、と思っています。自然と明るい気持ちになれたり、ものづくりやクリエイティブなものに向かうスイッチが自然とオンになったり・・・。それから、働く人やそこを訪れる人に「気づき」が生まれて、もっと働きやすくなることも期待できると思います。
Mediowlさんのオフィスでも、華やかなグラフィックがエントランスにあることで、訪問した人にポジティブな印象を与えて、「この会社は明るい雰囲気なのかもしれない」という発見や気づきが生まれるはずです。その印象を持ちながらMediowlさんとコミュニケーションすれば、良い関係性を築きやすくなるんじゃないかなと考えました。そういう気づきを持ち帰ってもらうことをテーマにグラフィックを制作しています。
――宮下さんには、ヒトカラメディアが企画・設計・運営した下北沢のコワーキングスペース「SYCL by KEIO」のグラフィックデザインもお願いしましたよね。
宮下:そうですね。はじめに依頼を受けたのはロゴマークで、「SYCL」というアルファベットをさまざまな角度から切り取ったロゴを制作しました。文字一つひとつが歪んでいたり、斜めに変形していたりするのは、同じ場所に集まったいろいろな立場の人が「SYCL」を違う角度から見ていることを伝えるためです。そうすることで、個々の視点を尊重する場であることを表現しています。そのために紙に出力した「SYCL」の文字一つひとつを切り取って、いろいろな角度から撮影したものを組み合わせたロゴにしました。そして、個々の視点をもっと伝えようと、AからZまでのアルファベットも同じようにオリジナルでデザインして、いろいろな場所に散りばめています。
そのあと、キーカラーの黄色を使ったイラスト込みのポスターも作ることになって。一人ひとりの空間をイメージして六角形の部屋をデザインして、それがつながることでSYCL by KEIOになるというキービジュアルにしたんです。ほかにも、サインデザイン(案内のための表示)だけでなく、ガラス窓や室内に飾ってある六角形の鏡に貼るシートのグラフィックなども担当しましたね。いろいろと関わらせてもらって面白かったです。
――ほかのワークプレイスでは、どんなクリエイティブを?
宮下:三軒茶屋のコワーキングスペース「三茶WORK」でもクリエイティブを制作する機会がありました。月一回、併設されたキッチンで飲んだり食べたりしながらお話しするイベントがあって、その開催を知らせるイラストを最近では制作しました。「夏野菜でワインを飲む」とか「ジビエ肉を食す」など、イベントのテーマが毎月変わるのが面白くて。それに合わせてイラストを制作したら運営の方がのれんにしてくれました。今月のイベントをお知らせするんです。のれんを見ればテーマがわかるので、みんなが気軽に集まりやすいみたいです。
ひとつのコミュニティの中でイラストやグラフィックが共通認識になったり、コミュニケーションを深めるきっかけになる瞬間がすごくおもしろくてやりがいを感じています。
3. グラフィックで企業の価値観を伝える。ヒトカラメディアが担当した「グラフィック×オフィス」を紹介
――今年10月、下北沢に新しくオープンするコワーキングスペース「KanadeBako」も辻村さんのプランニングで、グラフィックアートの導入をご提案したそうですね。
辻村:そうなんです。意匠性の高い空間にするだけでなく、運営会社である株式会社コンダクトさんの思いが込められた「事業に挑戦する人たちへの彩りを」というコンセプトを直感的に伝えるためにウォールアートを導入することにしました。
「KanadeBako」は、主にスタートアップの経営者やバックオフィスの方々が利用されるスペースになります。日々のコミュニケーションやイベントを通して、経営ノウハウの共有や孤独感の解消、組織づくりのコンサルなどができる場所をつくることで、事業に挑戦する人たちの人生を彩ろうとしています。空間の設計を進めていく中で、コンダクトさんから「お堅いイメージを持たれやすいバックオフィスの人たちとも交流しやすくなるように、開放的な場所にして敷居を下げたい」というご要望がありました。
▼「KanadeBako」のウォールアートを制作中の小田佑二さん

(ウォールアート:小田佑二/キュレーション:NOMAL ART COMPANY)
そこでアーティストの小田佑二さんにお願いして、執務エリアの壁一面にカラフルなウォールアートを導入することにしたんです。アートが映えるように、あえて家具の色味は抑えめに調整するなど、空間全体でコンセプトを表現しています。
――壁一面の大胆なグラフィックが際立つオフィスといえば、ヒトカラメディアが担当した映像制作会社エレファントストーンさんのサテライトオフィスも印象に残っています。
辻村:新設したサテライトオフィスは、メインのオフィスとは使い方を区別して、ラボ(アイディアを共有し合い、作品を生み出す場所)として運用したいというお話がありました。そこで、壁一面を使ったウォールアートを提案させていただきました。アパレルブランドとのコラボレーションなども手掛けるアーティストの櫻井 万里明さんに、「Co-Creation(共創)」をテーマにウォールアートを制作していただきました。櫻井さんのアートがあることで味気なかった空間が映えるだけでなく、そこに意味や役割を与えられたような気がします。
オフィスにグラフィックデザインやアートを導入するメリットは、働く人の気分が上がったり、写真映えするオフィスになったりとたくさんあります。今日は紹介しきれませんでしたが、企業の価値観を浸透させることにも役に立つ実感があります。ビジョンやカルチャーなどが具現化されたグラフィックを観るたびに、みんなで企業が大切にしたい価値観を振り返ることができます。それができる手段はグラフィック以外にあまりないと思うので、これからも積極的にご提案して、さまざまなアーティストの方とおもしろいオフィスを作っていければと思っています。
▼エレファントストーン社 [サテライトオフィスメイキング映像]
(ウォールアート:櫻井万里明/キュレーション:NOMAL ART COMPANY)
取材・文/流石香織
ヒトカラメディア
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