うだつがあがる町、徳島県美馬市のサテライトオフィス体験施設『創〜so〜』の魅力(前編)

中央に写るのは潜水橋と呼ばれる橋。増水時には橋が浸かるほどの水かさになるという。そしてお分かりいただけるだろうか……

この数年、サテライトオフィスという言葉を聞くことが徐々に増えてきました。サテライトオフィスとは簡単に説明すると、都市部に本拠地を構えながら、地方部にサブで構えるオフィスのこと。リモートで本拠地と連携を取りながら働けるIT事業者が主にサテライトオフィスを活用しています。

 

言葉としては意外に古く、1980年代後半からある言葉です。都市部よりも固定費が安く抑えられたり、巨大なデータを扱う企業にとってはバックアップ拠点として機能したりと、合理的な文脈で語られることが多かったのですが、近年ではちょっと視点の異なる、より定性的な側面が大きく注目されています。

 

まず挙げられるのが採用戦略の一環として。サテライトオフィスの近隣では、農業やアウトドア、アクティビティなど、自然に囲まれた環境だからこそできることがいっぱいあります。家の隣が畑、家の前がサーフスポット、そんな生活すら可能なのです。これが都市部だとなかなか満足にはできません。サーフィン好きの人だと東京近辺では湘南方面に住まれる方も多いと思います。しかし、そこに住んだとしても出勤前に波乗り、なんてことはなかなかできません。これがサテライトオフィスならできてしまう。こういったライフスタイルを魅力に感じる人材の採用手段として注目を浴びています。

 

サテライトオフィス進出企業の中には、その地域と連携した新しい事業を作り上げる企業もいます。都市部にはない魅力的なアセットと、地域では育ちにくいITソリューションなどを掛け合わせることで、思いもよらない刺激的な事業が生まれる。企業にとっての「新しいチャレンジの場」としても、サテライトオフィスには都市部だけでは得られない様々な可能性が秘められているのです。

 

 

サテライトオフィスの賑わうところに、キーマンあり

 

サテライトオフィス進出には、もちろん拠点を出す「企業側の意志」が必要不可欠です。しかし、それよりも大事なのが企業側にその決断までに至らせる「地域側の受け皿」。もっと分かりやすく言うと、サテライトオフィス進出企業を迎え入れたいと強く思う、熱量を持った地元の方がいるかどうか。現に今、サテライトオフィスが増えている地域を少し調べてみると、その盛り上がりの原動力となっているキーマンが存在します。

 

キーマンの想いに引き寄せられるように、想いのある企業や魅力的な人々が集まってくる。自然あふれる豊かな環境も魅力ですが、こういったエネルギーあふれる人とのつながりも、サテライトオフィスを構える大きな魅力と言えるでしょう。実際にヒトカラメディアも徳島県美波町にサテライトオフィスを構えていますが、会社の垣根も世代の垣根も超えての地元の方々との交流は刺激と気づき、そして何よりもエネルギーをたっぷりもらえます。

 

さて、今回紹介するのは、徳島県美馬市。徳島を東西に流れる吉野川沿いにあるこの町も、サテライトオフィスの機運が高まる地域です。その理由は、美馬市に新しくできたサテライトオフィス体験施設の存在。この施設を企画している美馬市職員の石田貴志さんからそういう計画があるとの話は伺っており、いよいよ2016年3月から本格的に稼働ということで実際に美馬市を訪れました。

 

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山の中腹から見下ろした美馬市。東西に流れる吉野川に沿って市街地が形成されている。徳島市内からも近いが、香川の高松空港からも車で1時間前後と意外と近い

 

 

美馬市ってどんな場所?

 

徳島県の美馬市と聞くと、何かしら縁がない限りはあまり馴染みのない方が多いかもしれません。場所は徳島県の東西を流れる吉野川沿い。川から少し離れると、深い山々が連なります。徳島市内からは車で1時間弱。徳島空港からもほぼ変わらない時間でたどり着けますが、実は香川県高松市とも隣接しており、成田空港とLCCでつながる高松空港からは車で1時間かからず着く好立地です。

 

ところで皆さん、日本人であれば「うだつがあがらない」って言葉聞いたことありますよね? 実は美馬市、「うだつがあがる」町として有名なんです。どういうことかというと、もともと「うだつ」というのは、日本家屋の屋根部分に施される防火壁のことを指すのですが、次第に装飾性が強まってきて、これを作るのにもなかなかのお金がかかるのです。

 

かつての藍商人たちの水運の拠点となった、うだつのあがる町並み。緑のネットはちょうど修復中の家屋。江戸時代さながらの歴史的な景観がいまなお大切に守り続けられている

かつての藍商人たちの水運の拠点となった、うだつのあがる町並み。緑のネットはちょうど修復中の家屋。江戸時代さながらの歴史的な景観がいまなお大切に守り続けられている

 

この、屋根の上の出っ張った部分が「うだつ」。元々は隣家が火事なった場合に延焼を防ぐための壁だったが、次第に財力を示す象徴的なものとなり意匠も凝ったものとなっていった。あとから建った家は、隣の家よりも少し高いうだつをあげる

この、屋根の上の出っ張った部分が「うだつ」。元々は隣家が火事なった場合に延焼を防ぐための壁だったが、次第に財力を示す象徴的なものとなり意匠も凝ったものとなっていった。あとから建った家は、隣の家よりも少し高いうだつをあげる

つまり、裕福な家しか「うだつをあげる」ことができなかったということ。それが転じて、「うだつがあがらない」は「パッとしない」だとか「なかなか出世しない」というような意味合いで使われるようになりました。美馬市はこの「うだつ」のあがる町並みが残る、日本でも数少ない場所。いまもしっかりとその歴史景観が保存されており、観光地としても有名です。

 

実はこの風情ある町並みの中にも、空き家がいくつか存在します。その利活用も検討されていますが、この話はまた後ほどで。

 

 

美馬市にできた、サテライトオフィス体験施設『創〜so〜』

 

そんなうだつの町並みで有名な美馬市にできたサテライトオフィス体験施設が『創〜so〜』と名付けられた山間の集落にある施設。今回、場所の選定から施設の活用方法、今後徐々に増やしていく様々なプログラムの考案なども含めて、『創〜so〜』のプロデュースを一手に担う、美馬市職員の石田貴志さんに美馬市と施設とそこを取り巻く環境を案内頂きました。

 

ー今回はいろいろと案内いただきありがとうございます。まずは現地来てみての率直な感想なのですが、のどかな景色が広がっていますね!

 

ようこそ美馬市へ!そうですね、うだつの町並みが残る脇町などの市街地も見応えあるエリアですが、この場所はかなり趣が異なります。『創〜so〜』が位置するのは美馬市の市街から車で15分ほど南に向かい山に入った、美馬市の旧穴吹町(美馬市は2005年に穴吹町を含む3町1村が合併して誕生)の知野地区というエリアです。ご覧のとおり、四方は山に囲まれていて、吉野川の支流の穴吹川がすぐそばを流れています。

 

サテライトオフィス体験施設『創〜so〜』のある知野地区は四方を山と清流穴吹川に囲まれた、のどかな景色が広がるエリアだ

サテライトオフィス体験施設『創〜so〜』のある知野地区は四方を山と清流穴吹川に囲まれた、のどかな景色が広がるエリアだ

 

ー市街からここに来るまで、穴吹川を遡上するようにここまでやって来ましたが、穴吹川、水が本当に透明ですよね。きれいすぎてすっかり心奪われました。

 

穴吹川は美馬市の自慢ですね。平成27年発表の国土交通省の調査では、一級河川の中で日本で最も水質のきれいな川に選ばれている川なんです。調査ではもっと下流の水で検査が行われるので、実際にはもっときれいなんじゃないかと思われます。

 

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サテライトオフィスから2、3分も歩くとあっという間に穴吹川に

 

中央に写るのは潜水橋と呼ばれる橋。増水時には橋が浸かるほどの水かさになるという。そしてお分かりいただけるだろうか……

中央に写るのは潜水橋と呼ばれる橋。増水時には橋が浸かるほどの水かさになるという。そしてお分かりいただけるだろうか……

 

この透きとおったコバルトブルー!

この透きとおったコバルトブルー!

 

ー夏になると賑わいますよね?

 

それはもう、暖かくなってきたら穴吹川、です。美馬市外、遠方からも大勢の人が集まります。定番の川遊びやバーベキューはもちろん、鮎釣りも盛んです。夏になると、僕の父親もよく鮎をたくさん釣ってきてくれます。たまに職場の打ち上げなんかでバーベキューをやることもあります。

 

ー職場の打ち上げということは、もしかして平日ですか?

 

平日です(笑)。もちろん休日に集まってバーベキューしたりもしますが。でも職場からも車で15分くらいなんで、街中の飲み屋で打ち上げをやるような感じで、平日でも仕事上がりにバーベキュー、全然できちゃうんですよね。釣った鮎もそのまま塩焼きにできちゃう。

 

ー東京ではまず考えられないです(笑)

 

そうですね、確かに、東京のような都市ではなかなか難しいですよね。ただ、よくよく考えてみると、日本各地のいろんなところに、同じような環境ってあると思うんです。少し車を走らせれば、場所によっては家から一歩外に出れば、豊かな自然と出会える場所。こんな、田舎じゃ当たり前だけど都会ではなかなかできない体験が味わえる施設としての側面を持たせたかったというのもあり、この地区にサテライトオフィス体験施設を構えました。

 

知野地区の風景。どこを向いても、都会の喧騒とは真逆のほっとする景色が広がる

知野地区の風景。どこを向いても、都会の喧騒とは真逆のほっとする景色が広がる

 

知野地区にはもちろん農地もある。写真を見ると、山との距離がいかに近いかが分かるだろう

知野地区にはもちろん農地もある。写真を見ると、山との距離がいかに近いかが分かるだろう

 

ー確かに、うだつの町並みのある脇町エリアではないのは、ちょっと意外でした。

 

市街地にある脇町エリアも魅力的なエリアです。歴史も景観も素晴らしいですし、面白い取り組みも増えてきています。ただ、「サテライトオフィス“体験施設”」としては、まずはこういった美馬市ののどかな自然の魅力に触れてもらったほうがよいなと思っています。

 

脇町は、そこで美馬市を気に入って頂いて、実際にサテライトオフィスを開設するぞ、という企業様に使ってもらえる受け皿として、並行して準備を進めています。

 

ーこういった雰囲気ある日本家屋のオフィスで働けるなんて、なかなかないですよね。

 

もともと、この脇町は藍染めで財を成し得た豪商が次々とうだつをあげて作っていった町並みです。「うだつがあがる」という言葉はビジネス的にもゲン担ぎとしていいのかなと。

 

脇町は町並みの保全は行っていますが、一方で空き家が徐々に増えてきています。そこをうまく活用して頂ける可能性のある企業様との接点を増やしていきたい。『創〜so〜』を利用して頂き、美馬市の魅力を知ってもらって、脇町をはじめとした美馬市の空き家などをオフィススペースとして活用いただく流れを作る。これも『創〜so〜』で実現したいことのひとつですね。

 

後編に続く

 

 

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ヒトカラメディア
ヒトカラメディア
株式会社ヒトカラメディアは『「都市」と「地方」の「働く」と「暮らす」をもっとオモシロくする』をミッションに、ベンチャー企業を対象としたオフィス移転、内装プランニング、働き方のコンサルティングを行う会社です。軽井沢と徳島県美波町で、サテライトオフィスを展開しています。