サテライトオフィスを開設する目的は?徳島県の神山町・美波町・三好市の企業に聞いてみた

隅田さん

企業や団体の、本拠点とは別の場所にオフィスを構えるサテライトオフィス。最近では移住促進事業の一環として地方自治体も力を入れており、オフィスを地方に構える企業が増えてきました。多くの企業がサテライトオフィスを開設している、徳島県の神山町、美波町、三好市ではすでにエリア特性がはっきりと見られ、開設前の企業が視察に訪れているようです。今回は、企業はどんな理由や目的があってサテライトオフィスを開設するのか、また、実際に開設した企業でないと分からない地方での暮らしについて、うかがってみました。

 

各人にあった場所を、選択できる働き方を作っていく

株式会社プラットイーズ 隅田さん

隅田さん
映像コンテンツを扱い、メタデータと呼ばれる番組属性情報の編集・管理業務を行っているプラットイーズは、2013年7月から徳島県の神山町に「えんがわオフィス」という名前のサテライトオフィスを開設しています。神山町は徳島県の東部にあり、面積の83%を山が占める、緑豊かなエリアです。現在は東京の恵比寿と徳島の神山町に二つの拠点を持っているのですが、驚いたのが「本社」という位置付けをしていないこと。正確にはどちらも「本社」なのだそうです。なんとなく東京オフィスに主軸を置き、そのサポート業務を地方オフィスに設置するイメージがあったのですが…この背景には、プラットイーズがサテライトオフィスを開設した理由が関係していました。

きっかけは「BCP対策」。他拠点を作らなければならなかった

そもそもサテライトオフィスの開設きっかけには、BCP対策で拠点分散を強いられていたことがありました。BCP対策とは、災害やテロが発生した時に業務が中断するリスクを最低限に抑えるため、事前に行う対策のことをいいます。業務上、一つの拠点で情報を扱うことをリスクと考えることもあり、2000年頃から大阪か名古屋に拠点を構えることを考えていたそうです。同業者が続々と地方へ展開していく中、なかなか地方展開へ踏み切れないでいたところに起こったのが、東日本大震災。いよいよ他拠点を構えなければならなくなった時、「一か所で仕事をしなくても良い。東京の人が時々地方へいってもよいのではないか」という意見が社内から出たことで、自由で強制されない文化が既にあった神山町へ開設することになったのです。

変わったコトや人を受け入れる寛容な神山町を選んだ

「郷に入れば郷に従え…という文化は比較的薄いように思う」と隅田さん。いい意味で縛られず、でも必要な時には助け合う文化が神山町にはあるようです。以前、移住した方に「自分の時間」「仕事の時間」以外に「地域の時間」を上手に作る必要がある…という話を聞いたことがあります。すでにあるコミュニティに入っていくには、それなりに労力は必要なようです。しかし、ここ神山町では、お話を聞く限りそういった文化は薄そうな印象。「好きな人や服や曲のように、はっきりとその理由は説明できないけれど、強いて言えば神山町の変わったコトや人を受け入れる寛容さが良い」と隅田さんは、神山町への思いをお話ししてくださいました。

そんな隅田さんに、サテライトオフィスのメリットとデメリットについて伺ってみたところ、メリットもデメリットも「選択肢が増えること」なのだそう。プラットイーズは入社後、恵比寿と神山町のどちらで働くかを自分で決めることができる制度を設けているのですが、このように選択肢が広がることで「人生を楽しめる人」と、中には「困惑してしまう人」がいるようなのです。働く場所は生活の拠点とほぼイコールで、固定化しやすいもの。この拠点を変えるということはとても勇気のいることですし、慣れるまでに踏ん張りも必要です。しかし、意外なことに神山町全体では女性の移住者の方が多いのだそうです。女性のほうが案外思い切りがあるのかもしれませんね。
今後は、社員が働く場所をもっと幅広く選べるように拠点を広げていきたいと仰っていました。

移住をきっかけに、ゼロからの町づくりを楽しむ

ハレとケデザイン舎 植本さん
ハレとケデザイン様

2014年4月に、徳島県三好市にサテライトオフィスを開設したハレとケデザイン舎。三好市は四国のほぼ真ん中にあることから「四国のへそ」と呼ばれ、神山町や美波町よりも広大なエリアです。最近では子どもの教育にも力を入れています。
ハレとケデザイン舎は、パッケージや広告デザインの仕事の他に、ハレとケ珈琲、ハレとケデザインホステルと事業が盛りだくさん。代表を務める植本さんは、東京では広告制作会社でクリエイティブ・ディレクターとして活動し、退職後に移住し、起業に至ったそうです。お話を伺う前は、子育てのための移住なのかと予想していたのですが、実際にはそれだけではありませんでした。

きっかけは廃校活用への応募

そもそものきっかけは 「廃校活用の提案」でした。三好市は小学校を統合させたことで20校ほどの廃校がでてしまい、その活用方法を募集しているという情報を得て、提案したことが三好市との出会いでした。結果、カフェやホステルとして活用する企画が受け入れられ、移住することに。都会暮らしから田舎暮らしへシフトすることにはあまり抵抗がなく、「踏み切った最大の要因は子どもの教育」と植本さんは仰っていました。徳島県はとにかく空気が良いので、喘息の一歩手前だったお子さんにとって環境が良かったこと。また、外国人観光客が多いことから日常的にグローバルな視点を養うことができるのも魅力だったようです。確かに、都心で英語を勉強するには英会話教室に通うのが一般的ですが、ここなら自然にネイティブな外国人の方と触れ合うことができます。

移住に必要なのは好奇心や楽しもうとする考え方

植本さんとお話しをしていて、一番印象に残ったのが「地域のための時間をどう考えるか」。例えば町のみんなが大切にしているお宮の掃除を、面倒と取るか、楽しそうと考えるかの違いです。植本さんは「東京にいたら絶対に経験できなかった」と楽しそうにお話ししてくれました。ここからもわかるように、都心では考えられないほど地域のコミュニティーは密であり接点も多く、こういった環境を苦と思わず楽しめることが、移住には不可欠なのだと思います。

そんな好奇心旺盛な植本さんですが、サテライトオフィスを開設して唯一デメリットと感じることは「プレッシャー」なのだそうです。言い換えれば期待なのかもしれませんが、まだ本格的に事業が始まっていない初期の段階でのメディア取材は、ちょっと荷が重く感じられるかもしれませんね。しかし、ハレとケデザイン舎を多くの人に知っていただくきっかけにもなったそうです。

お子さん、妹さんと一緒に移住された植本さんが今の生活で一番気に入っていること、それは「三好の風景」。「家から、一歩外に出ただけの風景でも息をのみます。毎日のように表情の違う山や雲、霧など幻想的で神々しい景色は無の境地」と植本さんは教えてくれました。そんな三好市で今後は、実際に暮らすことで見えてきた改善点やひらめきから、この環境を活かした教育の場作りに挑戦したいと仰っています。

 

数値では表せない、仕事に活きる経験値を得られる

株式会社たからのやま 本田さん

本田さんcafe_sasada
2013年7月から、徳島県の美波町にサテライトオフィスを開設している「株式会社たからのやま」は、東京と地方、開発者と利用者という2つ以上のものを繋げてITの新たな価値を見出すために、起業支援やエンジニア育成を行う会社です。美波町は、ウミガメが卵を産みに来ることでも有名で、漁師さんやサーファーも多く世代を超えての交流が盛んな町です。通常サテライトオフィスは、滞在型と循環型に分けられますが、必要な時に美波町オフィスを利用するたからのやまは、このスタイルを「移動型」と呼んでいました。

ITの可能性を探る

サテライトオフィスを開設した目的を「地域に入ればビジネスやそれ以外の発見があると思った」と説明してくださいました。たからのやまが運営する「ITふれあいカフェ」では、高齢者の方々に、タブレットの使い方を無料でレクチャーしています。そこで集めたデータをもとに、開発が進められるわけです。課題やニーズの調査を、交流を通じて行うことで、「数値では表現できない、でも必ず事業に役立つ経験や提案力が身につく」と本田さんは仰っています。

美波町を選んだ理由には、サイファーテック代表を務める吉田さんの存在がありました。吉田さんは美波町のサテライトオフィスを最初に築いた方で、孤軍奮闘しながら頑張る吉田さんの姿と、今後ますます活発になっていく美波町に惹かれたのが大きな理由だったようです。

本田さんとお話しする中で、一番印象的だったのがサテライトオフィスのデメリットに関すること。「会社全体の事業の中で、サテライトオフィスの維持コストをどのように評価するかが難しい」…これは、本拠点とは別に、アドオンになるオフィスコストをどう考えるかということ。上記で出てきた「数値では表現できない経験値」とは裏腹に、数値化できない価値をどう評価すべきかが課題というわけです。サテライトオフィスをどういった位置付けで展開していくのか、特に、毎日フル活用するわけではない循環型や移動型オフィスだと、難しい課題になると思います。

とはいえ、都会と田舎を行き来する中で、多様な考え方に触れられることがサテライトオフィスの良さでもあります。今後は、オフィスの空き時間を活用した新しいビジネスを展開していく予定だそうです。

最後に

いかがでしたか?ちょっと長くなりましたが、3社あれば3通りのサテライトオフィスとの出会いやストーリーがあることが分かりますね。取材をしていて意外だったのが、皆さん、必ずしも初めからサテライトオフィスという言葉を知っていた訳ではないということ。会社の方向性や暮らし方を追求した先に「サテライトオフィス」という選択肢にたどり着いたのです。人の興味や関心が多様化している今、それは今後の「働き方の領域」にも必ず影響してくると思います。そんな人材を受け入れるためにも、働き方の選択肢を増やす試みは、今後必要なのかもしれませんね。

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◼︎サテライトオフィスが盛り上がるわけ
◼︎サテライトオフィスを開設するなら参考にしたい補助内容
◼︎徳島県の神山町、美波超、三好市、それぞれの特徴

 

ヒトカラメディア
ヒトカラメディア
株式会社ヒトカラメディアは『「都市」と「地方」の「働く」と「暮らす」をもっとオモシロくする』をミッションに、ベンチャー企業を対象としたオフィス移転、内装プランニング、働き方のコンサルティングを行う会社です。軽井沢と徳島県美波町で、サテライトオフィスを展開しています。