閉校した学校が、再び地域のヨリドコロに。「働く女性」目線で作られた空間とは。

これまでに約250件以上のオフィスの空間づくりをサポートをしてきたヒトカラメディア。時にはオフィス以外の空間を手がけることも。今回ご紹介するのは、ヒトカラメディアにとって初めてとなる廃校活用プロジェクト。リングロー株式会社さんが取り組む「おかえり集学校プロジェクト」によって、学校としての役目を終えたこの建物はどのようにして再び人が集まる場所となったのか。

 

 

長南集学校の校長・鈴木陽子(すずきようこ)さんにお時間をいただき、内装デザインを手がけた世古(せこ)と共に、プロジェクト中の出来事や”開校”した長南集学校の様子についてお伺いしてきました。

 

<プロフィール>

鈴木 陽子(すずき ようこ)

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広島県尾道市出身。1978年生まれ。約20年前に上京。
5年ほどの音楽活動を経て、リングロー株式会社に出会い入社。
再生パソコンの検査業務、店舗業務などを経て、現在、千葉県長南町にある「長南集学校」の校長を務める。
私生活では2児の母親、会社から帰って飲むビールが最高の息抜き。

 

 

世古 鮎美(せこ あゆみ

神奈川県横浜市出身。1990年生まれ。
首都大学東京・インダストリアルアートコースにてプロダクトデザインと空間デザインを専攻。
歯科医療機器メーカーの企画部門を経て2018年、株式会社ヒトカラメディアに入社。
主にベンチャー企業のオフィスデザイン・設計を担当。母として現在子育てにも奮闘中。

 

 

「働く女性」の目線から、一緒に空間づくりを。

まずはじめに、リングローさんが取り組んでいる『おかえり集学校プロジェクト』がどんなものなのか教えてください!

鈴木さん:『おかえり集学校プロジェクト』は、全国各地の廃校をITを活用して再生し、雇用創出を含めた様々な面から持続可能な地域づくりを目指す取り組みです。具体的には、この場所でパソコン・スマートフォンの使い方教室を開催したり、電子機器やインターネットについての困りごとの相談窓口、地域の幅広い年齢層の方々がゆったり過ごせるスペースや交流できるイベントを備えることで、地域のみなさまのヨリドコロを作ることを目指しています。

2校目の集学校となる「長南集学校」を開校するにあたって、軸として置いたテーマは「働く女性」。そこで弊社の代表から紹介されたのが、本社のオフィス移転でもお世話になったヒトカラメディアの世古さんでした。まさしく子育てをしながら働く女性であり、よりリアルな目線でデザインしてくれるのでは?と、お願いすることになりました。

 

 

日本には、閉校した学校がたくさんある。その中で旧・長南小学校を選んだ理由は。

今回開校したのは、2校目となる集学校。長南集学校ならではの特徴はどんなところにあるのでしょうか。

鈴木さん:地元雇用という点では1校目と同じですが、集学校の業務だけではなく、本社のコールセンター業務も一部担っている点で異なります。また、すぐ隣に保育所があるので、働きたいと思っている地元の方が子供を預けてそのままこちらに出勤する事もできます。働くお母さんにとっては、最高の立地ですよね。

世古:何かあった時にすぐ駆けつけられる距離に子供を預けられるって、心理的にも安心ですね!保育所がすぐ隣にあるのも、今回この場所で集学校を開校するきっかけの一つなんでしょうか?

鈴木さん:そうですね。それとあともう一点、長南町が東京家政大学(※1)を創立した方の出身地なんです。それが、今回の「働く女性」というテーマと町がうまくマッチングできたのだと思います。
※1 東京家政大学・・・1881年創立の総合女子大学。建学の精神は社会に貢献できる女性の「自主自律」。

世古:長南小学校を開設するまでに2,3回くらい町民向けの説明会を開いたんですよね。町のひとに受け入れてもらえるか、本当に喜んでもらえるか、寄り添ってプロジェクトを進めていたのが印象に残っています。

鈴木さん:毎回このテーマだと喜ばれる、というものはありませんからね。長南集学校は、役場、町民、その他いろんな方の話を聞きながら形作ってきました。その地域のニーズに合わせたものを作るという考え方は、ヒトカラメディアさんがオフィスの内装を手がける時の考え方と一緒なのではないでしょうか。

世古:そうですね。時と場合、環境によって柔軟に形を変えていく、テーマや空間ってまさに”ナマモノ”だなと思います。

 

 

“校長”になったことで、「仕事」と「プライベート」の線引きがゆるやかに。

そもそも、鈴木さんが長南小学校の”校長”になったきっかけはなんだったのでしょうか。

鈴木さん:元々私は、事業主体であるリングロー株式会社でサポートセンターの業務と一緒に集学校のプロジェクトにも携わっていました。長南町に集学校ができると聞いた時、「いつかは田舎で子育てがしたい」という希望を実現させることができるのではという思いもあり、迷わず校長をやらせてほしいと手を挙げました。ここ何年かは「仕事」と「プライベート」も実は一緒で、それぞれがお互いに良い影響を与えることも多いし、分ける必要がないなと感じることが増えてきました。集学校の仕事は特に、「仕事」と「プライベート」の線引きがないんですよね。

世古:「ワークアズライフ」って言う話がありますが、私もヒトカラメディアで仕事をするようになってから、「働く」と「暮らす」は、切り離すより一緒にしてひとつの生活と考える方が面白いと思うようになりました。以前鈴木さんがここでお子さんと一緒にお昼ご飯作ることがあるという話を伺ったことがあるのですが、その状況、すごくいいですよね。働いてる最中に子供がいて、一緒にご飯を食べる時間があって、働く場所も生活する場所も同じ所にあって。この状況がもっと普及したら、「働く」と「暮らす」がもっと面白くなるのではないでしょうか。

鈴木さん:ちょうど昨日も娘がここで宿題をしていたのですが、隣で私が仕事をしている姿を見て、楽しそうって思ってくれたみたいなんです。子供に自分が働いている姿をポジティブに捉えてもらえるって、すごく嬉しいことですよね!彼女自身の「仕事」というものに対してのイメージが明るいものになっているといいなぁと思います。

 

「仕事」も、「子育て」も。そんな状況をもっと実現させていきたい。

ー出産・子育てのタイミングで「働く」と「暮らす」についての問題に直面する女性は少なくないように思います。お二人も、これまでになにか葛藤を感じることはありましたか?

世古:そうですね、できることなら「働く」も「暮らす」も両立したい。働くからこそ子育ても充実させたい、子育てを充実させたいからこそ働きたい、誰でも同じような葛藤をもっているのではないでしょうか。長南集学校のような働き方は、一個の新しい事例として、私自身も学ぶところがたくさんありました。

鈴木さん:私も子育てと仕事の両立に葛藤を抱きながら、時短勤務をしていた過去があります。長南集学校には授乳室があったり、執務スペースから目の届く範囲に子供が遊べるキッズスペースがあったりと、子供を連れてこれる空間と働く場所を同居させることを実現してくれました。

 

執務スペースから目が届くキッズスペース

世古:普段私たちが手がけているオフィスでは、より不特定多数の方が一緒に過ごす場なので、「働く女性」に寄りきったデザインを作るということはなかなかできません。今回はテーマがはっきりと決まっていたので、とことん「働く女性」目線でこだわりを入れ込むことができました。今までにない新鮮な経験でした。

鈴木さん:「働きながら」「暮らしながら」「子育てしながら」が共存する空間ができたおかげで、よく町の人たちが乳幼児を連れて遊びに来てくれています。実は長南町には徒歩圏内で遊べる場所が意外と少ないんです。公民館をはじめ、どこへ行くにも車がないと移動することができません。長南集学校ができたことで、近くの子供たちが宿題をしたり、wi-fiを使って遊んだりすることも可能になりました。

世古:地域の様々な年代の方にとって、ヨリドコロになりつつあるんですね!

 

長南町に移住して、一番変わったのは「時間の捉え方」

なるほど、集学校で働くメンバーだけではなく、町の人にとっても良い居場所になっているんですね。一方で、引っ越してきて起きた鈴木さん自身の心境の変化はありますか?

鈴木さん:具体的な変化でいうと、満員電車乗らなくていい、通勤時間が減ったというところですね。あとは、ストレスをほとんど感じなくなりました。ストレスフリーな生活です!

世古:東京へ通勤していた時って、何時にここへ行って、何時に帰って、家帰ってご飯を作って・・・みたいな1日のタイムスケジュールが頭にあったと思います。集学校の校長になって長南町へ移住したことで、ここら辺の変化というものもありましたか?

 

校庭で飼育しているヤギ達。17時きっかりになると、小屋まで走って戻るそう。

鈴木さん:時間の捉え方はかなり変わりましたね。子供は学校が終わったら長南集学校にきて過ごすことが多いのですが、働く場所に一緒にいることで、タイムスケジュールについて考える必要がなくなったんですよね。朝は学校まで子供を送っていくのですが、それでも移住前と比べて2時間ぐらい余裕があるんです。生活自体にも変化があって、私自身も子供たちも、自然と早寝早起きするようになったんです。これは別に意識して直したとかではなく、移住して自然と習慣化されましたね。

世古:時間に余裕ができた分、日中にやるべきこと・やりたいことを済ませ、夜遅くまで起きる必要性がなくなったのでしょうか。心にも体にも健康な過ごし方をされているようで、羨ましいです!(笑)

 

ヒトカラメディアにとって、初めてづくしのプロジェクト

小学校の内装はヒトカラメディアとして初めての案件でした。実際手がけてみて、いかがでしたか?

世古:私自身も小学校の案件は人生で初めての経験でした。小学校って建物的に結構癖があるのですが、社内にもノウハウがない状態でプロジェクトがスタートしました。手探り状態でしたが、社内外のいろんな人の協力のもと、なんとか無事に完成させることができました。

鈴木さん:完成までのプロセスの中で、ヒトカラメディアさんには地域の方を巻き込んだ「シンボルツリーのDIT企画(※2)」を提案していただきました。実際に企画部分を担ってくれたKUMIKI PROJECT株式会社さん、お手伝いしてくださった長南町の皆さまをはじめ、本当に多くの協力に助けられたプロジェクトでしたね。初めはDIT企画って正直どうなんだろう?本当に盛り上がるんだろうか?と不安もありましたが、本当にやって良かったと思っています。
※2 DIT・・・Do It Togetherの略。1人ではなく、みんなで行うチームビルディング型の空間づくりワークショップ。

世古:この建物自体のコンセプトと町の方向性が合ったことにプラスして、リングローさんの人柄、この人たちだったら同じ目線で進められる!と思えたからこそ、実現できたことだと思います。本気で同じ目線と熱量をもったメンバーが集ったので、ワクワクが尽きない面白いプロジェクトでしたね。提案に対してのYES/NOだけじゃなく、リングローさんからも提案があったのが嬉しかったです。なるほど!って話がどんどん膨らんでいく状態って楽しいんですよね。

 

 

鈴木さん:DIT企画には、自分の母校だから来てみた方、集学校って一体なんだろうと興味をもって参加を決めた方などがいらっしゃいました。この企画はリングローのメンバーでは思いつけなかったと思うので、長南集学校の工事が本格的に始まる前にこのような取り組みができて非常に良かったです。

世古:オフィスでも同じことが言えるのですが、お客さんが自分の言葉で自分たちの場所を話せるようになってほしいという願いを私たちプランナーはいつも持っています。一緒にDITをすることで、なんでこれが作られたのか、どうやってできたのかをお客さん自身の言葉で語れるツールのような役割を担ってくれるんです。

 

愛され続けた小学校。形を変えて再スタートしたその後と、町の人の反応

– 完成した長南集小学校はどうですか?実際、町の人からはどんな反応があったのでしょうか。

鈴木さん:今でも見学に来る方が結構いらっしゃるんですが、やっぱりこのシンボルツリーを地域の方と一緒に作った話をすると、素敵だねとお声をいただきます。執務スペースから見える範囲にキッズエリアがある点と、交流スペースのテーブルについてのコメントもよくいただきますね。

世古:このテーブルはもともと白い天板で作られているものですが、あえてそれを外して、手触り感や匂いを意識した木材の天板を付けました。同じくプロジェクトを一緒に担っていた弊社の八塚というメンバーも一児の父なので、子供が遊んでいる姿をみてる親の視点に立って、どんな場所になにがあると安心して働いているそばに子供が一緒にいれるかなと考えまくりました。

鈴木さん:私は、キッズルームにあるソファもすごくお気に入りです!あれは寝心地も良くて大人にも人気なんですよ(笑)あと、じっくり見ると所々学校らしさが残っているのもいいですよね。
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世古:そうですね、たとえば校内の放送用のスピーカーや、校長室の照明は元々あったものです。ここはこれまで長南町の多くの人が過ごしてきた場所で、これからも形を変えて地域の人々に愛される場所であってほしい。なので、廃校前の学校らしさは残すべきなんじゃないかという考えに至ったんです。長南集学校の開校式で、廃校前の学校の卒業生であるおじいちゃんにお会いした時、「人がたくさんいて、所々に面影が残っている。昔にもどったみたいだ」と言ってくださったのが嬉しかったですね。

鈴木さん:開校式では、数年前に卒業した子供達も懐かしがっていましたね。卒業後、いつでも気軽に小学校に遊びに来る機会って意外とないものです。長南町の多くの人にゆかりがある場所がこうして再び地域に開いたことは、町の人々にとっても良いきっかけになったのではないでしょうか。凄いと思ったのが、私たちリングローが残したいと思ったものをヒトカラメディアさんは言わなくても分かってくれたこと。想いや考えが通じやすかったですね。

世古:私たちはクライアントとなる企業さまがどういった考え方を大事にされているのかを軸に、一緒にプロジェクトをつくっていきます。今回、チーム全体が熱量高く最後まで取り組めたのは、リングローさんの想いをたくさんお聞かせ頂きながら、「大事にしている こと」を強く共有しながら進められたことが大きいですね。本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございました!

 

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(対談ここまで)

 

母になり、子育てと働くことについての間で葛藤を経験してきたお二人。悩んだ時期があったからこそ、より強い想いがたっぷり詰まったあたたかい空間が実現できたように感じられました。働く女性だけではなく、地域の子供やお年寄りの方まで、長南集学校は、全ての人にとって心の拠り所となりうる場所になるのではないでしょうか。

 
ヒトカラメディアは、「働く場」と「働き方」に関して、多くの成長企業のお手伝いをしています。お客様のミッションやビジョン、バリューを大切に、オフィス作りをサポートします。「ただのオフィス移転」を「会社の成長の好機」に変えたいとお考えの方、働き方・働く場に関してお悩みの方、ぜひヒトカラメディアにお気軽にご相談ください。

有園七海
有園七海
新潟県出身。明治学院大学文学部フランス文学科卒業。地方の選択肢を増やしたら、もっと面白い生き方が増えるのではと思い、ヒトカラメディア初の新卒として入社。主に採用・広報に携わっています。一番の趣味は旅行。到着する前の移動の時間がすきです。最近の夢は縁側のある天井の高い家に住むこと。